(第2回)9・11米国同時多発テロ(高橋祥友)/『災害支援者支援』から
2001年9月11日に起きた同時多発テロは米国民に深い傷痕を残した。圧倒的な軍事力を誇る米国であったが、テロリストが易々とハイジャックした航空機によって、死亡者約3000人、負傷者約6000人の被害が生じた。
われわれは2013年3月にニューヨークを訪れた。すでに10年以上経過していたが、連邦政府資金で支援者支援の試みが続けられていた。
ニューヨークにあるマウント・サイナイ医科大学ではWTCP(The World Trade Center Program:世界貿易センタープログラム)が、9・11同時多発テロ後から継続的に実施されていた。世界貿易センタービルで救助活動に当たった約4万人の消防士や警察官を対象としたフォローアップ計画である。崩壊した世界貿易センタービルで、救援活動に当たった支援者たちは、瓦礫の破片やアスベストを吸入して、呼吸器系の疾患を発症する危険があり、当初は身体的なフォローアップに焦点が当てられていた。しかし、彼らの中にさまざまな心理的問題も発生していることにも気づかれて、心理的なケアも実施されるようになった。
WTCPでは、同時多発テロとの関連障害と判定されると、治療費は連邦政府から援助され、無料となる。いくつかの興味深い知見も発表されていた。たとえば、部分的なPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状は認められるものの、PTSDの診断基準に完全に合致する症例の率は、先行研究ほどは高くはない点や、PTSDのハイリスク群として若年者よりも経験豊富な支援者が挙げられていた(先行研究では、若年者がハイリスク群とされてきた)。
さらに、草の根の運動も印象的であった。9・11遺族会はグラウンドゼロの隣に追悼センターを設置し、愛する家族を喪った経験を、センター来訪者に語り継ぐとともに、遺族同士の自助グループも作っている。
なお、彼らは東日本大震災後から毎年来日し、東北の被災者を訪問する活動を続けている。「テロであれ、津波であれ、愛する家族を突然喪った悲しみは分かち合うことができる」との思いから、9・11遺族会のメンバーたちが今でも東日本大震災の被災者を見舞っている。自分たちの力で「今、ここで」できることは何かを考える米国人の発想に頭が下がる思いがした。
高橋祥友(たかはし・よしとも)
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授
◆このコラムが掲載されている書籍はこちらです。
高橋 晶 編著『災害支援者支援』(日本評論社、2018年)
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