(第3回)トモダチ作戦(高橋祥友)/『災害支援者支援』から
東日本大震災直後に、在日米軍5万人のうち約2万人が被災地に派遣されて、トモダチ作戦を展開したことは広く知られている。
その中であまり多くの人が知らないエピソードがある。私は一度テレビのニュース番組で目にしただけなので、記憶は不確かであるのだが、今も鮮明な印象を抱いている(反米軍感情の強いわが国のマスコミはこのニュースを大々的に報じなかったのかもしれない)。
3月末に米海兵隊員たちが被災県の、ある学校に出向いて、講堂、教室、校庭の掃除を始めた。新学期に備えて、学校の整備を手伝ったのだ。
さて、掃除が終わると、海兵隊員たちは早速、皆で校庭に出て、地元の子どもたちと野球を始めた。バットやグローブは海兵隊員たちが持参してきた。子どもたちは大喜びだ。大きな米兵たちは、まるで大リーグの選手のように見えたのだろう。子どもたちは歓声を上げ、大声で笑い、校庭を駆け回る。周りで見ていた母親たちは涙ぐんでいる。「震災以来、子どもたちがこんなに嬉しそうにしているのを初めて見ました」というのだ。
子どもが災害弱者であることは、私も承知している。しかし、このような形で子どもを励ますというのは、私の発想にはなかった。子どもにとっては、当たり前の日常をできる限り早い時期に回復することが、最大の激励になるのだろう。
東日本大震災では、米国から多くの支援があった。知り合いのアメリカ人に会うと、私はその御礼を述べるとともに、この海兵隊員と被災地の子どもたちの野球のエピソードを添えることにしている。すると、アメリカ人は必ずといってよいほど「それこそがまさにアメリカ人にとっての野球なんだ」と答えてくる。彼らにとっては、野球はまさしく平和の象徴だというのだ。戦争が終わって、焼け野原で、兵士がまず始めるのも野球だという。ぜひ「American soldiers」「baseball」のキーワードでインターネット検索してみてほしい。焼け跡で早速野球を始めている米兵のたくさんの写真が見つかるはずだ。
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高橋祥友(たかはし・よしとも)
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授
◆このコラムが掲載されている書籍はこちらです。
高橋 晶 編著『災害支援者支援』(日本評論社、2018年)
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