(第5回)「ごちそうしたいんだよ」(高橋祥友)/『災害支援者支援』から
東日本大震災後の、ある仮設住宅での出来事である。私は90歳台のお年寄りに話を伺っていた。何かの拍子にそのおばあさんから、「うどんは好きかい?」と尋ねられた。私は大の麺好きで、一日三食、麺でも大歓迎だ。「はい」と答えると、おばあさんは「ちょっと待っててな」と席を立った。さて、私はまずいことを言ってしまったかなと不安になった。
しばらくして戻ってきたおばあさんは「今朝、打ったばかりのうどんだ」と言って、5人分くらいのうどんを持ってきてくれた。私は正直なところ、私がその場で食べる1杯くらいならば、ありがたくいただいてもよいだろうと思っていた。ところが、一抱えもする量だ。おばあさんはニコニコして「みんなで食べらんしょ」と言う。さて、困った。被災者のお年寄りの食料をもらってもよいものかと、こころが痛んだ。しかし、お断りする言葉も思いつかず、心苦しいながらも、そのまま受け取ってきて、同僚とありがたくいただいた。
さて、東日本大震災から7年が経ったある日、テレビ番組でコピーライターの糸井重里氏が対談しているのを偶然目にした。糸井氏は震災後、被災地とかかわりを持ち続けるには何ができるかと考えて、現地に会社を立ち上げたという。その縁があって、今でも定期的に被災地に出かけている。
現地の人々とも交流が生まれた。出かけていくたびに、「震災後初めて獲った魚だ」「初めて収穫した野菜だ」と被災者の方々から糸井氏は大歓迎された。糸井氏は「こんなにごちそうしてもらっては困るなあ」と頭を掻いた。すると、被災者の男性は「ごちそうしたいんだよ。助けてもらうばかりでなくて」と答えたという。
限られたものしか持たない状況でも、与えられたサポートにお返しをしたいという気持ちが湧き上がるのは自然なことだろう。支援は双方向性だとつくづく思う。支援者から被災者への一方向的なサポートという視点ばかりでなく、被災者自身がみずからの力で立ち上がるという視点を欠いた対策は、どこかに不自然な流れを創り出してしまうのではないかと反省した。被災者をすべて他者からしてもらう「お客様」にしてしまうことがないように支援の枠組みを考えるべきだろう。
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高橋祥友(たかはし・よしとも)
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学教授
◆このコラムが掲載されている書籍はこちらです。
高橋 晶 編著『災害支援者支援』(日本評論社、2018年)
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