『特定商取引法ハンドブック[第6版]』(著:齋藤雅弘・池本誠司・石戸谷豊)

一冊散策| 2019.03.22
新刊を中心に,小社刊行の本を毎月いくつか紹介します.

 

 

第6版の序

特定商取引に関する法律の一部を改正する法律(平成28年法律第44号)が第190回通常国会で可決成立し、2017(平成29)年12月1日から施行されました。この改正に伴い、同法の施行令、施行規則、通達等も改正されています。

今回の改正は、悪質事業者への法執行の強化のための方策に重点が置かれていますが、その他にも実務に影響の大きい法改正や政省令の改正がなされています。とりわけ、指定権利制が見直されて「特定権利」の概念を設け、適用対象にすき間をなくすことを目指していますが、これによって実際にすき間がなくなったのかどうかについては、消費者庁等による今後の法執行の内容や裁判所の判断なども注視しながら確認する必要があります。また、これに関連して、仮想通貨(暗号資産)が絡む相談や紛争については、その取引がどういう性質の取引なのかという問題だけでなく、仮想通貨を支払い手段とした場合の特商法上の位置づけ等を把握することも重要です。

また、近年トラブルが多発しているインターネット通信販売におけるいわゆる定期購入の問題について、広告記載事項及び申込画面の設定に関して重要な省令及びガイドラインの改正が盛り込まれました。

その他にも、電話勧誘販売についての過量販売解除権の新設、美容医療サービスの特定継続的役務提供への追加など、実務的に活用できる点が盛り込まれています。本書は、こうした新たな法制度や諸問題に解説を加えたほか、行政処分や裁判例をできる限り最新のものに改訂しています。

今回の法改正で最重点とされた法執行の強化については、業務禁止命令が新設されたほか、業務停止命令の期間が1年から2年に伸長され、事業者に対して消費者利益を保護するために必要な措置を指示できることも明確化されました。また、行政調査権限の強化、刑事罰の強化等が盛り込まれています。

これに関連して、事業者が、法執行に対して行政手続が適正であったかどうかや行政処分の要件等について争う事案も増えてきているため、本改訂においては特商法の執行に関する行政訴訟や国家賠償請求訴訟の裁判事例に検討を加え、実務上多く登場する行政手続法や行政訴訟法の論点について裁判所がどう判断しているかという解説も加えました。

執筆者3人は、長年にわたりこの分野の活動をしてきていますが、今回の改正との関係では、池本は内閣府消費者委員会に設置された特定商取引法専門調査会委員及び第4期消費者委員として、石戸谷は第3期消費者委員としてこの改正の審議を担当しました。なお、美容医療サービスの特定継続的役務提供への政令指定は、美容医療の苦情実態を受けた消費者委員会の建議(2015〔平成27〕年7月7日「美容医療サービスに係るホームページ及び事前説明・同意に関する建議」)を受けた医療法の平成29年改正(2018〔平成30〕年6月1日施行)による広告規制と合わせて、美容医療被害の防止と救済を目指して盛り込まれたという経緯があります。また、齋藤と池本は特商法の執行に関連する実務にも関わっており、同法の執行に伴う諸問題に関する解説ではこれらの経験が生かされるよう配慮しています。

本書は、発刊以来一貫して特定商取引に関する被害救済の実務に資することに加え、健全な事業を推進しようとする事業者の皆さんにもお役に立つことを旨とし、紛争の実態に即した解説を心掛けています。コンプライアンス経営の促進が強調されている昨今であり、事業者の皆さんのコンプライアンス経営の参考として頂くなど、各方面で、活用いただけることを祈念しています。

著者情報

齋藤 雅弘(さいとう・まさひろ)
1954年生まれ。1980年一橋大学法学部卒業、1982年東京弁護士会登録。現在、日弁連消費者問題対策委員会委員、一橋大学・早稲田大学・亜細亜大学非常勤講師、国民生活センター客員講師・紛争解決委員会委員など。著書に『電気通信・放送サービスと法』(弘文堂、2017年)、共著書に『消費者法講義(第5版)』(日本評論社、2018年)、『条解消費者三法』(弘文堂、2015年)、『電子商取引法』(勁草書房、2013年)などがある。東京都新宿区に四谷の森法律事務所を開設(03-5363-1251)。

池本 誠司(いけもと・せいじ)
1955年生まれ。1978年明治大学法学部卒業、1982年埼玉弁護士会登録。現在、日弁連消費者問題対策委員会幹事、内閣府消費者委員会委員、同特定商取引法専門調査会委員、明治大学非常勤講師、国民生活センター客員講師・紛争解決委員会委員など。共著書に『消費者法講義(第5版)』(日本評論社、2018年)、『条解消費者三法』(弘文堂、2015年)、『割賦販売法』(勁草書房、2011年)などがある。さいたま市に池本誠司法律事務所を開設(048-839-0611)。

石戸谷 豊(いしとや・ゆたか)
1950年生まれ。1974年東北大学法学部卒業、1976年横浜弁護士会(現在は神奈川県弁護士会)登録。現在、日弁連消費者問題対策委員会委員、国民生活センター判例情報評価委員など。共著書に『新・金融商品取引法ハンドブック(第4版)』(日本評論社、2018年)などがある。横浜市に港共同法律事務所を開設(045-212-3517)。

目次

第1章 特定商取引法の制定・改正の経緯
第1節 訪問販売法制定の経緯
第1 産業構造審議会中間答申/第2 立法趣旨と解釈指針
第2節 法改正の経緯
第1 1984年改正/第2 1988年改正/第3 1996年改正/第4 1999年改正/第5 2000年改正(1)──訪問販売法から特定商取引法へ/第6 2000年改正(2)──書面の電子化一括法による特商法の改正/第7 2002年改正/第8 2003年政令改正/第9 2004年改正/第10 2008年改正/第11 2009年改正/第12 2012年改正/第13 2016年改正

第2章 特定商取引法の構造・特徴と法適用
第1節 特定商取引法の趣旨・目的と全体像
第1 立法の趣旨・目的/第2 特定商取引法はどのような法律か/第3 特商法の全体像/第4 特商法の構造と特徴を踏まえた法適用の考え方
第2節 特商法が適用される対象者
第1 特商法が適用される者の種別/第2 複数の事業者が関与する取引/第3 事業目的の営利性/第4 購入者等と消費者
第3節 「取引の対象となるもの」と特商法の適用関係
第1 訪問販売、電話勧誘販売および通信販売における取引対象と政令指定制/第2 商品・役務の政令指定制の廃止と適用除外リスト方式の採用/第3 特定商取引における取引対象(商品、権利および役務)と特商法の適用/第4 特定権利と「指定権利制」/第5 訪問購入における取引対象となるもの(物品)
第4節 特商法の適用除外
第1 適用除外の方法と考え方/第2 訪問販売、電話勧誘販売、訪問購入、通信販売および特定継続的役務提供に関する適用除外の内容/第3 訪問購入の一部の規定が適用除外となるもの(法58条の17第2項)/第4 連鎖販売取引または業務提供誘引販売取引に関する適用除外の内容

第3章 訪問販売
第1節 特質と法規制
第1 特質/第2 法規制の概要
第2節 適用対象
第1 定義(法2条1項)/第2 適用除外
第3節 行政規制
第1 概説/第2 書面交付義務/第3 誘引段階の行為規制/第4 禁止行為
第4節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 過量販売解除権/第3 意思表示の取消権/第4 損害賠償等の額の制限(法10条)

第4章 電話勧誘販売
第1節 特質と法規制
第1 電話勧誘販売による被害/第2 電話勧誘販売の特質と問題点/第3 外国における電話勧誘規制/第4 電話勧誘販売の特商法上の位置づけ
第2節 適用対象
第1 定義/第2 電話勧誘販売の主体と取引対象/第3 「電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせる」こと/第4 売買契約または役務提供契約の締結についての勧誘をする場合であること/第5 電話勧誘行為により、郵便等での契約の申込みを受け付けること、または契約を締結すること/第6 適用除外/第7 電話勧誘をめぐる取引の諸形態と特商法の適用関係
第3節 行政規制
第1 誘引段階の行為規制/第2 書面交付義務/第3 前払式電話勧誘販売における承諾等の通知義務/第4 禁止行為と指示対象行為/第5 合理的根拠を示す資料の提出
第4節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 過量販売解除権/第3 意思表示の取消権/第4 損害賠償等の額の制限

第5章 訪問購入
第1節 特質と法規制
第2節 適用対象
第1 定義/第2 適用除外
第3節 行政規制
第1 誘引段階の行為規制/第2 書面交付義務/第3 禁止行為/第4 引渡拒絶権の告知義務/第5 売買契約の相手方に対する物品を第三者へ引き渡した旨等の通知義務/第6 物品の引渡しを受ける第三者に対する購入業者の通知義務/第7 指示対象行為/第8 行政規制違反
第4節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 引渡拒絶権/第3 損害賠償等の額の制限
第5節 差止請求権
第6節 刑事罰

第6章 通信販売
第1節 特質と法規制
第2節 適用対象
第1 定義/第2 適用除外
第3節 行政規制
第1 広告規制/第2 電子メール広告規制/第3 前払式通信販売での承諾等の通知義務/第4 指示対象行為
第4節 民事効
第1 返品制度/第2 特商法の定める法定返品権
第5節 電子商取引と特商法
第1 電子商取引の特質/第2 電子商取引にかかわる当事者/第3 電子商取引と特商法/第4 電子商取引と民事法

第7章 特定継続的役務提供
第1節 特質と法規制
第1 継続的役務提供取引の被害の特質/第2 法規制の概要
第2節 適用対象
第1 特定継続的役務提供/第2 取引主体/第3 政令指定役務(政令12条・別表第4)/第4 特定権利販売契約(法41条1項2号)/第5 指定期間/第6 指定金額/第7 関連商品販売契約/第8 適用除外
第3節 行政規制
第1 概説/第2 広告規制/第3 合理的根拠を示す資料の提出(不実証広告規制)/第4 書面交付義務/第5 禁止行為/第6 財務書類等の閲覧・謄本請求
第4節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 中途解約権/第3 意思表示の取消権

第8章 連鎖販売取引
第1節 特質と法規制
第1 連鎖販売取引の特質と利殖取引/第2 マルチ商法とねずみ講被害の歴史的経緯/第3 法規制の経緯/第4 無限連鎖講防止法
第2節 適用対象
第1 定義/第2 適用対象/第3 適用除外
第3節 行政規制
第1 はじめに/第2 誘引段階の行為規制/第3 広告規制/第4 書面交付義務/第5 禁止行為
第4節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 中途解約権/第3 意思表示の取消権
第5節 行政監督
第1 はじめに/第2 改善の指示/第3 取引停止命令/第4 業務禁止命令
第6節 刑事罰
第1 2016年改正での罰則強化/第2 概要/第3 両罰規定・法人重課/第4 まとめ
第7節 被害救済の法理と諸問題
第1 はじめに/第2 裁判例/第3 連鎖販売取引と無限連鎖講の関係/第4 インターネットを利用したねずみ講・マルチ商法

第9章 業務提供誘引販売取引
第1節 特質と法規制
第1 内職・モニター商法被害の実態/第2 内職・モニター商法の特質
第2節 適用対象
第1 定義/第2 取引主体/第3 物品(商品)・役務/第4 業務提供利益/第5 特定負担/第6 物品販売、役務提供取引であることと特定負担との関係
第3節 消費者保護規定の適用対象
第1 適用される規定/第2 適用要件
第4節 行政規制
第1 概要/第2 広告規制/第3 誘引段階の行為規制/第4 書面交付義務/第5 指示対象行為と禁止行為
第5節 刑事罰
第6節 民事効
第1 クーリング・オフ/第2 意思表示の取消権/第3 業務提供利益と商品購入等契約との関連性/第4 損害賠償等の額の制限
第7節 特定商品預託法
第1 立法趣旨/第2 適用対象/第3 行為規制と消費者の権利

第10章 ネガティブ・オプション
第1 ネガティブ・オプションとは/第2 民法等における効力/第3 特商法による規制

第11章 行政執行
第1節 はじめに
第2節 特商法による執行
第1 国の執行と都道府県知事の執行/第2 行政調査権限/第3 誇大広告・不実告知に対する調査手続/第4 特商法の定める行政処分
第3節 執行に伴う諸問題と裁判例
第1 はじめに/第2 法執行と行手法/第3 法執行と行訴法/第4 法執行に関連した裁判例
第4節 主務大臣に対する申出制度・指定法人等
第1 主務大臣に対する申出制度/第2 指定法人/第3 業界団体

第12章 消費者団体による訴訟制度
第1節 総論
第1 導入の経緯/第2 特商法・景表法への導入/第3 消費者裁判手続特例法/第4 適格消費者団体・特定適格消費者団体
第2節 差止対象行為
第1 一般的要件/第2 取引類型別の対象行為/第3 対象外の行為/第4 差止対象行為を現に行いまたは行うおそれ

第13章 被害救済の法理
第1節 民事効を活用した被害救済
第1 はじめに/第2 特商法の民事規定/第3 特商法による事業者規制の趣旨・目的/第4 特定商取引における被害救済の法的枠組み
第2節 契約の解消等のために特商法が定める民事効
第1 クーリング・オフ/第2 過量販売解除権/第3 禁止行為違反の勧誘による意思表示の取消権/第4 法定返品権/第5 中途解約権/第6 クーリング・オフ、中途解約および意思表示の取消しに伴う契約の効力/第7 特商法の損害賠償等の額の制限規定と消契法/第8 物品の引渡拒絶権
第3節 ‌特定商取引において利用する信用購入あっせん契約と割販法
第1 概説/第2 適用対象/第3 抗弁の対抗/第4 クーリング・オフ/第5 過量販売解除権/第6 個別クレジット契約の取消し/第7 アクワイアラー等の登録制および加盟店調査義務
第4節 ‌民法・消契法による特定商取引における不当契約からの解放
第1 民法の活用/第2 消契法の活用
第5節 損害賠償請求
第1 不法行為/第2 債務不履行
第6節 履行請求

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