靴をそろえる話:地域の診療所(田中茂樹)
こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2019.07.25
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。
(奇数月下旬更新予定)
◆この記事は「こころの科学」193号(2017年5月)に掲載されたものです。◆
子どもに何かをさせることにすごくこだわる大人に面接で時々出会う。
孫が不登校気味であることを心配して70代の女性が相談にこられた。その女性(祖母)は彼女の娘(母親)と孫の女の子の3人でやってきた。
彼女は娘家族とは少し離れたところに住んでいた。話を聞いたところ、娘夫婦は別居中であった。そこにいたるまでの数年間も、家の中はかなり大変だったことがうかがわれた。女の子が元気がないのもある程度いたしかたないことのように思われた。
印象に残ったのは、この女性が何度も繰り返して孫の寝る時間のことばかり話されたことだった。娘夫婦の問題には一切関心がないかのように、ただ「子どもは9時には寝かさないと」、ほとんどその点だけにこだわっておられた。