民事裁判の流れを確認しよう(イマセン・宮本和弥)

特集/裁判傍聴に行こう!| 2019.10.01
特集:裁判傍聴に行こう!
どんな事件が民事裁判として取り扱われるのでしょうか。民事裁判はどのように進んでいくのでしょうか。
刑事裁判と民事裁判の違いをわかりやすく解説します。

民事裁判とは何か

1 民事裁判とは

民事裁判とは、一般の人たちの間における社会生活上の紛争に関する民事事件を扱う裁判のことです。たとえば、物を買ったから引き渡して欲しい、貸したお金を返して欲しい、家を貸したのに家賃を払ってくれないから出ていってほしい、といった事件を扱います。また身分上の紛争、たとえば離婚や遺産分割などの事件を家事事件と呼びますが、これも民事事件の範ちゅうになります。これに対して、刑事事件は、検察官が、罪を犯したと疑われる人に対して刑罰を科すことを求める裁判で、窃盗や傷害、殺人などの犯罪事実を扱います。

ところで、たとえば、自動車の運転手が人を轢いて怪我を負わせてしまう交通事故を起こしたとしましょう。刑事事件では、検察官が、自動車の運転手に罰金や懲役(ちょうえき)といった刑罰を科すことを求めます。これに対して、民事事件では、自動車に轢かれて怪我をした人が、自動車の運転手に対して、治療費や慰謝料(いしゃりょう)といった金銭の支払いを求めます。このように、一つの交通事故をめぐって民事事件・刑事事件の両方が生じることもあります。

2 民事裁判の登場人物

民事裁判では、裁判所に訴えを起こした側を「原告(げんこく)」といい、訴えを起こされた側を「被告(ひこく)」といいます。この原告と被告が当事者と呼ばれ、この当事者が裁判では攻撃防御を繰りひろげます。それを聞いて公平な立場から判断を下すのが裁判官ということになります。

刑事裁判では裁判にかけられた人のことを「被告人(ひこくにん)」と呼びますが、被告人が法廷に出廷しないと審理が進められません。しかし、民事事件では、原告も被告も弁護士に依頼し、自分の代わりに訴訟活動をしてもらうことができます。裁判では、原告代理人、被告代理人などと呼びます。もちろん自分自身で訴訟活動を行うことできますが、訴訟となるとなかなか素人では手続の進行が難しく、代理人弁護士を依頼することが多いです。

民事裁判手続の流れ

1 訴えの提起から答弁書(とうべんしょ)の提出まで

まず、民事裁判では、原告が「訴状(そじょう)」という書面を裁判所に提出することによって始まります。訴状には、誰に対して(被告になる人です)、どのような請求をするのか、その請求がどのような事実や証拠、法律の根拠に基づくものであるのかといった内容が記載されています。

次に、訴状が裁判所に提出されると、その訴状は被告に送達されます。被告は、訴状の内容を確認して、原告の請求に対する答弁や認否、被告の主張などを「答弁書」という書面にまとめて、裁判所に提出します。

2 第1回口頭弁論期日:訴状及び答弁書の陳述(ちんじゅつ)

裁判官が法廷で原告・被告双方から、直接、口頭による弁論を聴く手続を「口頭弁論」といいます。なお、刑事裁判では、法廷での審理を「公判(こうはん)」といい、民事事件と刑事事件では法廷で審理をする際の期日の呼び方がそれぞれ「口頭弁論期日」、「公判期日」と異なっています。

第1回口頭弁論期日では、裁判官が原告代理人に対し、「訴状を陳述しますね」などと質問し、原告代理人が「陳述します」などと述べます。このやりとりによって、裁判所に対して、原告が訴状の内容を法廷で述べたこと(口頭弁論)になります。民事裁判では、当事者の主張は法廷において口頭で陳述されたものだけを判決の基礎とすることができることになっているので、原告は裁判所に訴状を提出するだけで足りず、訴状の内容を陳述する必要があるのです。

被告が答弁書を事前に裁判所に提出している場合には、仮に被告が第1回口頭弁論期日を欠席していたとしても、被告は答弁書の内容を陳述したものと扱います。これを「陳述擬制(ちんじゅつぎせい)」といいます。第1回口頭弁論期日を決めるにあたっては原告の都合だけで決め、裁判所は被告に一方的に期日を指定します。そのため、被告の都合が悪く第1回口頭弁論期日を欠席せざるをえなくても、答弁書を提出すれば陳述擬制を認め、以後、審理を進めることができるようにしたのです。なお、陳述擬制は基本的に第1回口頭弁論期日だけに認められています。

これに対し、もし仮に、被告が原告の訴状を受け取っていながら第1回口頭弁論期日に欠席し、かつ、答弁書も提出しなかった場合は、被告は原告の主張を全面的に認めたものとみなされます。これを「擬制自白(ぎせいじはく)」といいます。その場合、原告の請求を認める旨の判決が直ちに下されます(「欠席判決(けっせきはんけつ)」)。

3 第2回口頭弁論期日以降の流れ

(1)争点整理

被告が答弁書を提出していた場合は、訴状や答弁書の内容を踏まえて、第2回口頭弁論期日以降、争点を整理していきます。争点整理の一般的な進行順序は、①原告・被告が主張する事実の確定、②そのうち、争いのない事実と争いのある事実の区別、③争いのある事実を立証するための証拠の整理です。

原告・被告は、事実上・法律上の主張を「準備書面(じゅんびしょめん)」という書面に記載して裁判所に提出し、口頭弁論期日において陳述します。

そして、原告・被告は、それぞれ自己の主張を裏付け、証明する証拠書類を提出します。原告の証拠を甲号証、被告の証拠を乙号証と言って区別します。もっとも、民事事件の場合は、刑事事件と異なり、提出し採用された証拠書類は朗読されません。そのため、傍聴人からするとどんな証拠書類が提出されたのか分からないことが多いです。

なお、第2回口頭弁論期日以降は、必ずしも公開の法廷で行われるとは限りません。弁論準備手続(べんろんじゅんびてつづき)といった非公開の場で行われることもあります。法廷ではなく、裁判官室の脇にある打合せ室のような会議室で行います。

(2)証拠調べ:証人尋問(しょうにんじんもん)、当事者尋問(とうじしゃじんもん)

争点を整理した後、争点の判断に必要な証人につき、当事者の請求をうけて採用決定し、公開の法廷で証人尋問をします。そのほか、原告・被告本人の尋問も行います(「当事者尋問」といいます。)。

ア 証人尋問

まず出廷した証人が人違いでないかどうか、氏名などを確認します(「人定質問(じんていしつもん)」)。

次に、証人尋問に先立って、証人に対して、嘘をつかないという「宣誓(せんせい)」をさせます。この宣誓に反してわざと嘘をつくと、偽証罪(ぎしょうざい)(3月以上10年以下の懲役)という罪に問われる可能性があります。

尋問は、証人を請求した当事者から主尋問を行います。そして、相手方の反対尋問が行われ、再度、主尋問(再主尋問)を行うことがあります。その後、必要に応じて、裁判官が補充的に尋問します。

イ 当事者尋問

当事者尋問も請求を受けて実施します。当事者も証人と同様、嘘をつかないという宣誓しますが、証人尋問と異なり、当事者がわざと嘘をついたとしても、偽証罪には問われず、10万円以下の過料という行政上の制裁を受けることとなります。

4 和解期日

訴訟の進行中も、裁判所の関与の下で両当事者がお互いに譲り合って和解をすることがあります。裁判所は、いつでも和解を試みることができるとされています。裁判の場で和解が成立すると、裁判が終了します。裁判上で成立した和解には確定した判決と同一の効力があるため、当事者の一方が和解内容を遵守しなかった場合、強制執行をすることも可能です。

5 判決言渡期日(はんけついいわたしきじつ)

証人尋問及び当事者尋問(証拠調べ)を終えた時点で、裁判所は原告・被告から最後に準備書面を提出させ、陳述してもらいます。これを「最終準備書面(さいしゅうじゅんびしょめん)」と呼びます。この段階に達すると、裁判所は原告の訴えに対して結論を出せる状態に達し、判決をすることとなります。原告が主張する事実について、証拠調べをしても、それがあるかどうか不明だった場合、その事実はなかったものとされます。民事裁判では、原則として原告に立証責任があるからです。

なお、判決の言渡しの際には、刑事裁判と異なり、両当事者やその代理人が出廷していなくてもすることができます。そのため、判決の言渡しの際には、当事者も代理人も出廷することはほとんどありません。判決結果は、判決書の送達を受けて効力が発生することになります。

判決に不服がある当事者は、判決の送達を受けてから2週間以内であれば不服申立てをすることができます。これを「控訴」といいます。この不服申立期間を渡過すると、判決が確定することとなります。当事者は確定した判決に基づいて、強制執行をすることができます。

民事裁判フローチャート

民事裁判フローチャート(クリックするとPDFが開きます)

(イマセン、補助:宮本和弥)


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イマセン
本名今井秀智(いまい・ひでのり)。弁護士。弁護士法人東京開智法律事務所代表。新潟県生まれ。中央大学法学部卒業。1991年検察官(43期)、1997年弁護士登録(東京弁護士会)。「昔話法廷」(NHK Eテレ)などの法律監修も行っている。


宮本和弥
國學院大學法科大学院修了。平成30年司法試験合格・現司法修習生(72期)。