(第2回)サンプルは母集団を代表しているか? —「無回答による偏り」を中心に

現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2019.12.18
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.(全12回の予定)

(毎月中旬更新予定)

私たちは、何らかの集団について、何かを知りたくてデータをとる。数学の期末試験のクラス平均は何点だろう。4 月に入学してきた新入生は、一年後、大学の授業にどの程度満足しているのだろうか。横浜市民は IR 誘致についてどう思っているのだろう。どれくらいの日本人が憲法改正に賛成、または、反対なのだろうか。食後に飲むと血糖値が下がるとうたわれている健康飲料は、実際に血糖値を下げる効果があるのだろうか。

クラスの平均点や新入生の満足度など、集団のサイズが小さい場合は、原則的には、集団のメンバー全員からデータをとることができる。しかし、横浜市民や日本人全体のように集団のサイズが大きくなると、全員からデータをとるのはむずかしい。そこで、興味の対象である集団(母集団)から一部(サンプル)をとって調べ、その結果にもとづいて、元の集団についての結論を導くことになる。

この「母集団からサンプルをとる」という作業をサンプリングというが、サンプリングで重要なのが、とったサンプルが母集団を代表していること、つまり、サンプルに偏りがないことだ。

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麻生一枝 長浜バイオ大学准教授.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.