生徒に「おごる」「お金を貸す」:保健室(すぎむらなおみ)
こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2019.11.25
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。
(奇数月下旬更新予定)
◆この記事は「こころの科学」163号(2012年5月)に掲載されたものです。◆
「生徒にお金をあげた」!?
「私、どうすればよかったんでしょう」とある若い養護教諭に話しかけられた。家庭環境が複雑で、ひとり暮らし同然の生徒がいるという。ときどき家にお金がおいてあるが、十分な額ではない。その生徒が「電気代払えないから、電気がとめられる」と保健室に相談にきたのだそうだ。こんなに寒いのにどうするの? と思うとたまらず、彼女はその生徒の手に一万円をにぎらせたという。
「だって、かわいそうだったんです。私、まちがってませんよね」と彼女はおいすがるような目で私をみつめた。私は目をそらして深呼吸をした。そうでなければ、「なんて安易なことを!」と彼女をののしってしまいそうだった。「だって、ほかにどうにかできたんですか?」と彼女は重ねて問う。「できたと思う」と私は答え、彼女は泣きだした。