極端からはじめよ:アジェンダ設定の「シンプルな本質」

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.01.31
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Andreas Kleiner and Benny Moldovanu(2017)”Content-Based Agendas and Qualified Majorities in Sequential Voting,” American Economic Review, 107(6), pp.1477–1506.

宮下将紀

$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$

民主的な決め方とはどのようなものか—この問いはアリストテレスの時代から、経済学や政治学をはじめとするさまざまな社会科学の分野で議論されてきた。今日に至っても依然としてコンセンサスの得られた問いではないが、現実的な折衷案を求める各国議会で人気の投票方式がある。二択の投票を繰り返し行い、最終的に1つの選択肢を複数から選び抜くというものだ。例えば、米国連邦議会では2つの改正案と1つの現行案が議題に上がった場合、まず改正案同士で二択の投票を行い、その勝者と現行案を戦わせるという方式がとられる。このように、トーナメントの要領で前ステップの勝者と次の選択肢を比べる方式は「改案方式(amendment procedures)」と呼ばれており、英語圏や北欧各国の議会でよく用いられている。一方、ドイツでは複数の選択肢の中から1つずつを議題に上げ、繰り返し是認投票を行う方法が用いられる。ある選択肢があらかじめ定められた人数を超す賛同を得た時点で投票は終了し、その選択肢が議会の決定として選ばれる。このような方式は「逐次方式(successive procedures)」と呼ばれ、大陸ヨーロッパで広く用いられている。

さまざまな投票方式が各国で用いられているわけだが、いかなる場合にも「どの選択肢(アジェンダ)から投票するか」は結果を左右しうる重要なイシューだ1)。アメリカのように現行案をシードとする国もある一方、ドイツでは慣習的に極端な選択肢から意見の集計を始めることが多い。実際、ドイツ連邦議会の手続き規則には次のことが明確に記されている。

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脚注   [ + ]

1. 有名な例として、東西統一ドイツの首都を決める1991年の投票が挙げられる。当時、折衷案も含めて4つの選択肢の間で逐次投票が行われた。後の研究によると、ボンはコンドルセ勝者であったにもかかわらず選ばれなかったとの見方が強い。もし、歴史とは異なる順番で逐次投票が行われていたならば、現在のドイツの首都はボンだったかもしれない。