(第7回)感染の不安? 不安の感染?

子育てのノロイを解きほぐす―発達障害の子どもに学ぶ(赤木和重)| 2020.03.10
「〇〇ができないとダメ!」「みんなと一緒でないといけません!」「子育て、かくあるべし!」……そんな子育ての“ノロイ”に、気づけばとらわれていませんか? 発達障害の子どもとかかわる心理学者の優しいまなざしが、私たちにかけられたノロイをやわらかくしていきます。

(毎月上旬更新予定)

まさかの新型肺炎騒ぎ

連日、コロナウイルスによる新型肺炎が騒がれています。そのなかで、まさかの総理大臣による突然の一律休校要請。結果として、ほとんどの公立小中学校、高校が休校になっています(3月9日現在)。多くのご家庭が、日々の生活をどうやりくりしようか、頭を悩ませていることでしょう。連載当初、このような事態になるとは、想像もつきませんでした。

私は車で通勤しているのですが、最近、開店前のドラッグストアに多くの人が並ぶのを見かけるようになりました。最初は「マスクを買うため?」と思っていたのですが、どうもそれだけではないことがわかりました。ご存じのとおり、トイレットペーパーやおむつ、生理用品など、一部の紙製品がなくなってしまうので、それらを購入するために並んでいるのです。

ここまでくると、「感染の不安」なのか「不安の感染」なのか、よくわからなくなってきます。最初は、「コロナに感染するかも」という不安だったはずです。ところか、それだけではなく、「生活がやりくりできなくなるかも」「仕事はどうなるのだろう」といったさまざまな不安が発生し、それが次々に感染してしまって、「トイレットペーパーがなくなるかも」という事実に基づかない不安までが伝染してしまっています。

何より、「感染の不安」が今でも一番であれば、ドラッグストアに長時間並ばないはずです。至近距離で長時間列に並ぶことは、コロナウイルスに感染するリスクが高い行為のはずですから1)。しかも、マスクをせずに並んでいる人もいます。これはもう、「感染の不安」ではなく、「不安の感染」です。不安の内容については、根拠があったりなかったりさまざまですが、とにかく不安が湧き起こり、その不安が集団に伝染しています。とどのつまり、「パニック」です。

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脚注   [ + ]

1. もっとも、「原材料不足でトイレットペーパーがなくなる」ことには根拠がなくても、「店にトイレットペーパーがない」ことは事実です。そのため、トイレットペーパーが必要な人が並ぶこと自体はわかります。ここで私が言いたいのは、並ぶ人の批判ではなく、「漠然とした不安」こそが買い占めにつながっているという状況を考えなければいけないということです。

赤木和重(あかぎ・かずしげ)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授。専門は発達心理学、インクルーシブ教育。同時に、保育・学校現場に入り、子どもや教師の姿に感動し、それを理論化する仕事をしている。著書に『アメリカの教室に入ってみた:貧困地区の公立学校から超インクルーシブ教育まで』(ひとなる書房)、『目からウロコ!驚愕と共感の自閉症スペクトラム入門』(全国障害者問題研究会出版部)など。現在、わが子とのポケモンカードバトルに夢中。