「できない」の真相:予備校(喜多徹人)
こころの現場からセレクト(こころの科学)| 2020.03.17
心理臨床、医療、教育、福祉、司法など、対人援助にはさまざまな「現場」があります。「こころの現場から」は、そうした臨床現場の風景をエッセイという形で紹介するコーナーです。雑誌「こころの科学」にこれまで掲載されたもののなかから、こころの科学編集部がいま届けたい記事をセレクトして転載します。
(奇数月下旬更新予定)
◆この記事は「こころの科学」153号(2010年9月)に掲載されたものです。◆
「本当にこの子は錠剤が飲めないんです!」
お母さんが伏し目がちに泣きそうな顔で話すと、A子さんは同じような悲しげな表情で小さくうなずいた。母の言うことにはほとんど反発するのに、「○○ができない」などの否定的なことには必ず娘も同意するのがこの母子の特徴である。
A子さんは高校を卒業して神戸セミナーに通っている予備校生である。学習に関しては能力が高く、中学時代はクラスでトップレベルの成績で「進学校」といわれる公立高校に進学した。高1のころから「容姿」について気にするようになり、家族旅行で写真を撮るときに自分の顔を写さないということがあった。