(第6回)反復体の独立性と偽反復 — 反復しているようでしていない?!
現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2020.04.14
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.(全12回の予定)
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
「母集団について何かを知るために、母集団からサンプルをとり、それを測定する」というタイプの研究は、観察的研究とよばれている。これに対し、「母集団からとったサンプルに何らかの処理を施し、処理の影響を見る」というタイプの研究は、実験的研究とよばれている1)。世論調査は観察的研究の一例で、新薬の比較対照実験(例えば、新薬投与 vs. 偽薬投与)は、実験的研究の一例である。
研究が観察的なものであれ実験的なものであれ重要なのが、十分大きなサンプルをとることだ(第5回を参照のこと)。母集団が人や動物の集団なら、たった $1$ つの個体ではなく、十分な数の異なる個体を調べる。そうすることで、偶然によるサンプルの偏りを避けることができる。
脚注
1. | ↑ | デイヴイッド・ムーア/ジョージ・マッケイブ(2008)『実データで学ぶ、使うための統計入門』麻生一枝・南條郁子訳、日本評論社、239ページ。 |
麻生一枝 成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.