企業の経営慣行が従業員の生産性に与える影響
海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.05.29
Gosnell, Greer K., John A. List and Robert D. Metcalfe (2020) “The Impact of Management Practices on Employee Productivity: A Field Experiment with Airline Captains,” Journal of Political Economy, 128 (4): 1195-1233.
西村仁憲
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はじめに
林(2007a, b, c)で行われた一連の研究は、バブル崩壊後の長期停滞の要因の解明を目的として行われた1)。そこでは、「失われた 10 年の主因は、第 1 に TFP 成長率の低下、第 2 に投資の低迷」(林2007a、p.10)であったことが指摘されている。林(2007a)では、TFP (全要素生産性)成長率低下の要因に着目するため、労働経済学者らによって労働市場の分析が行われている。それでは、昨今の日本の TFP はどのような状況なのであろうか。中村・開発・八木(2017)では、1998〜2009 年の OECD 諸国の上場企業(製造業)のデータを用いて、個別企業ごとにTFPを計測している2)。日本企業の TFP については、「日本企業の一部は世界的にみて高い生産性を実現しているが、全体として生産性の低い企業の割合が大きく、国全体でみたマクロの生産性水準では米国の後塵を拝している」(p.12)状況であると評しており、筆者が漠然と感じている日本経済に対する閉塞感がどこから来ているのかを教えてくれる結果であるようにも見える3)。
脚注
1. | ↑ | 一連の研究は、「経済制度の実証分析と設計」というシリーズになっており、林文夫編(2007a)『経済停滞の原因と制度』、林文夫編(2007b)『金融の機能不全』、林文夫編(2007c)『経済制度設計』(いずれも勁草書房)という 3 つの本に収録されている。ミクロデータを用いた研究が多数収録されており、ミクロ実証分析に興味のある読者には非常に興味深い本だと思われる。 |
2. | ↑ | 中村康治・開発壮平・八木智之(2017)「生産性の向上と経済成長」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.17-J-7。 |
3. | ↑ | 中村・開発・八木(2017)では、日本企業の TFP 成長率の停滞をさまざまな角度から議論したうえで、「日本の生産性を中長期的に高めていくためには、企業における無形資産の蓄積や効率的な利用を促すとともに、労働市場や金融資本市場の効率性を高めることで経営資源の再配分を強化することが望ましい」(p.21)と述べている。 |