医療保険需要のノンパラメトリック推定

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.05.28
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Tebaldi, Pietro, Alexander Torgovitsky and Hanbin Yang (2019) “Nonparametric Estimates of Demand in the California Health Insurance Exchange,” NBER Working Paper No. 25827.

矢田紘平

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信頼度逓減の法則

離散選択モデルのノンパラメトリック推定、さらには 1990 年代以降に発展した部分識別の草分けである Charles F. Manski は、推論の信頼性が仮定の強さに伴い低下していくことを「信頼度逓減の法則」と呼んだ1)。データ生成過程に多くの仮定を課せば、そこから得られる結果は強力なものとなるが、信頼性に欠ける。一方で、ほとんど何の仮定も置かなければ、データに支持される結果が無数に存在し、何ら意味のある結論が得られないということになりかねない。これは、すべての実証研究者が抱えるジレンマであろう。本稿で紹介する Tebaldi, Torgovitsky and Yang (2019) は、信頼性のあるできるだけ弱い仮定のもとで、医療保険需要の推定を試みた研究である。

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脚注   [ + ]

1. Manski, C. F.(2003) Partial Identification of Probability Distributions, Springer-Verlag New York.