(第3回)コロナ危機対応の最前線に立つ ECB(田中理)

コロナ危機とEUの行方| 2020.07.31
2020年に入って突如世界を席巻し始めた新型コロナウイルス感染症は,2020年3月11日にはWHOによってパンデミック宣言され,依然として予断を許さない状況が続いています.このコラムでは,さまざまな立場のEU研究者が,「コロナ危機下のヨーロッパ」がどう動くのか,どこへ向かうのかについて読み解いていきます.(全12回の予定)

経済や政治環境が異なる 27 ヶ国で構成される欧州連合 (EU) の危機対応は、しばしば「小さすぎて遅すぎる (too little too late)」との批判に晒されてきた。加盟国間の利害調整に時間が掛かり、時に徹夜の協議の末に出てくる危機対応策は、合意に至る過程で規模も中身も “妥協の産物” となっていることが多い。

今回のコロナ危機でも当初、欧州各国は自国の爆発的な感染拡大への対応に追われ、EU として一体的な危機対応の取りまとめが遅れた。各国は医療資源を自国で抱え込み、医療崩壊の瀬戸際にあったイタリアやスペインに十分な医療支援を提供することができなかった。財政資源の乏しい加盟国に、医療・治療・予防関連の財政資金や失業対策費用を提供する総額 5400 億ユーロ (約 66 兆円) の安全網が整備されたのは、既に多くの国で感染者がピークアウトしていた 5 月に入ってからだった。感染収束後の経済復興資金を加盟国に提供する総額 7500 億ユーロ (約 92 兆円) の復興基金は、7 月 17〜21 日まで 5 日間に及んだ欧州首脳会議でようやく合意に漕ぎ着けた。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

田中理(たなか・おさむ)
第一生命経済研究所主席エコノミスト
1997 年慶應義塾大学法学部卒、日本総合研究所入社、調査部にて米国経済・金融市場を担当。その間、日本経済研究センターに出向。2001年モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現:モルガン・スタンレー MUFG 証券) 入社、株式調査部にて日本経済担当エコノミスト。海外大学院留学 (バージニア大学経済学修士・統計学修士) を経て、2008 年クレディ・スイス証券入社、株式調査部にて日本株担当ストラテジスト。2009 年第一生命経済研究所入社、2012 年より現職。2015〜2020 年多摩大学非常勤講師。
共著に『EUは危機を超えられるか---統合と分裂の相克』(NTT出版)。