(第10回)統計的有意差と生物学的重要性 — ふたつは別物

現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2020.08.13
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.(全12回の予定)

(毎月中旬更新予定)

$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$

実験群と対照群の間には、統計的に有意な差が認められました ($p < 0.0001$)。

$p < 0.0001$。このように論文に書かれていると、いかにもすごい発見がなされたかのように思いがちだ。しかし、統計的な有意差と、生物学的、医学的、あるいは実用面での重要性は、別のものだ。$p$ 値の意味するものは、第8回に紹介した、

「実験群と対照群では効果に差が」と仮定した時に、手元の結果、あるいは、それ以上に極端な値 (大きい、あるいは小さい) が得られる確率

に尽きる。これ以上でも、これ以下でもない。実験群と対照群の差、例えば、新薬の効果の程度、については何も言及していない。

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麻生一枝 成蹊大学非常勤講師、長浜バイオ大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.