(第11回)統計的有意差の誤用 — 有意差の差を効果の差の判定に使ってはいけない
現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2020.09.08
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.(全12回の予定)
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
久しぶりに,皆さん自身で考えていただくことから始めよう.前回に続き,例に使うのは,ニワトリの餌に加えるサプリメントの効果を調べる実験である.第 8 回の $p$ 値の定義や前回(第 10 回目)の $p$ 値と効果量の話を参考に,つぎの実験結果の解析と結論に納得がいくかどうか考えてみてほしい.
サプリメント A とサプリメント B では,ニワトリの体重増加に及ぼす効果が違うかどうかを調べるために,つぎのような実験を行った.まず,母集団からランダムに 30 羽のニワトリのヒナを選んだ.つぎに,その 30 羽をランダムに 10 羽ずつのグループに分け,対照群には標準食を,実験群 A には標準食とサプリメント A を,実験群 B には標準食とサプリメント B を与えて育てた.そして,40 日後に体重増加量を測定した.
麻生一枝 成蹊大学非常勤講師、長浜バイオ大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会)など.