科学と政治:日本学術会議の会員任命拒否問題をめぐって(広渡清吾)

特別寄稿/日本学術会議の会員任命拒否問題をめぐって| 2020.10.06
特別寄稿:日本学術会議の会員任命拒否問題をめぐって

2020年10月1日、「日本学術会議」が推薦した新会員候補6人について、菅義偉首相が任命を拒否していたことがわかりました。日本学術会議の元会長 広渡清吾さん(東京大学名誉教授)に、その問題点と重大性について寄稿いただきました。なお、10月2日に日本学術会議が内閣総理大臣に提出した「第25期新規会員任命に関する要望書」はこちらです(日本学術会議ウェブサイトPDF)。

日本学術会議法関係条文(編集部)

日本学術会議法(抄)

日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、 わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する ことを使命とし、ここに設立される。

第3条 日本学術会議は、独立して左の職務を行う。
一 科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。
二 科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

第7条 日本学術会議は、210人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、こ れを組織する。
2 会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
3 会員の任期は、6年とし、3年ごとに、その半数を任命する。(以下略)

第17条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦する ものとする。

第26条 内閣総理大臣は、会員に会員として不適当な行為があるときは、日本学術会議の申出に基づき、当該会員を退職させることができる。


日本学術会議会長宛て3氏の要請書全文(編集部)

日本学術会議会長殿

要請書

日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向け総力であたることを求めます

私たちは、2020年8月、第25-26期日本学術会議会員候補者として推薦されました。小澤は2008年10月から12年にわたり、岡田と松宮は2011年10月から9年にわたり、連携会員として日本学術会議の活動に誠心誠意参画してきました。私たちはこうした参画とこの度の推薦を栄誉なことと思い、会員候補者としての諸手続きを済ませ、事務局からの総会、部会等への出欠の問い合わせにも応じて、10月1日からの総会等への参加を準備していました。ところが、9月29日、突如として、内閣総理大臣による任命がなされない旨伝えられました。日本学術会議としても前代未聞の事態と聞きます。

私たちの日本学術会議会員への任命を拒むにあたり、内閣総理大臣からは理由など一切の説明がありません。これは、日本学術会議の推薦と同会議の活動への私たちの尽力をまったく顧慮しないものとして、到底承服できないものです。もしも私たちの研究活動についての評価に基づく任命拒否であれば、日本国憲法第23条が保障する学問の自由の重大な侵害として断固抗議の意を表します。

また、今回の事態は、私たちだけの問題ではなく、日本学術会議の存立をも脅かすものです。日本学術会議は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関」(日本学術会議法第2条)として、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること」などの職務を「独立して」行い(同法第3条)、「科学の振興及び技術の発達に関する方策、科学に関する研究成果の活用に関する方策、科学を行政に反映させる方策」などについて、「政府に勧告することができる」(同法第5条)とされています。こうした日本学術会議の地位、職務上の独立性、権限は、会員の任命が内閣総理大臣の意のままになれば、すべて否定されてしまい、学問の自由は、この点においても深刻に侵されます。

貴職におかれては、このような重大問題をはらむ私たちに対する日本学術会議会員への任命拒否の撤回に向けて、会議の総力を挙げてあたることを求めます。

2020年10月1日

小澤隆一 東京慈恵会医科大学教授 憲法学 第21-24期連携会員
岡田正則 早稲田大学法学学術院教授 行政法学 第22-24期連携会員
松宮孝明 立命館大学大学院法務研究科教授 刑事法学 第22-24期連携会員


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広渡清吾(ひろわたり・せいご/東京大学名誉教授、日本学術会議元会長)