信じるものが矛盾する?—信念形成のための実践的ガイド

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2020.12.03
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Sadler, E.(2020)”A Practical Guide to Updating Beliefs from Contradictory Evidence”, Econometrica, forthcoming.

宮下将紀

情報生成過程の不在

月曜日、あなたが家を出ようとした矢先、同居人が「今日は午後から雨降りらしい」と言った。情報伝達を受けて、あなたは傘を持っていくか否かの意思決定を行う。主観的効用理論とベイジアン・アップデートを適用するなら、まず同居人のメッセージをもとに雨が降る事後確率を計算し、それが持ち物がかさ張ることで生じるコストを上回る場合、傘を持って家を発つ。一方、日常の些細なやりとりの中では、正しい情報生成過程、すなわち真の状態が雨降りだった場合に同居人から「今日は午後から雨降りらしい」というメッセージが届く条件付き確率といったものは想定されえない。同居人がどの天気予報を見たのか、また、その予報の精度がどれほどかなど、あまりに大きな不確実性がそこにはある。よって、標準的な意思決定理論の枠組みが、こういった日常にありふれた場面を (well-defined な問題として)取り扱うのは案外難しい。実際には、あなたは同居人のメッセージをある条件付き確率の実現値ではなく、あくまで額面通りの情報(あるいは同居人の親切)として受け取るだろう。ある種、無条件の信頼が信念をアップデートする伴になっている。

だが、人々は時として相反する情報に直面し、無条件の信頼は矛盾を引き起こす。

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