(第12回・最終回)法セミ2021年3月号の学び方のポイント&例題
連載に先だって、次回取り扱う内容のポイントと例題を掲載していきます。予習に、力試しに、ぜひご活用ください。そして、「法学セミナー」本誌もあわせてご覧ください。初学者の強い味方となる「初歩からはじめる物権法」、2020年4月号より連載開始です!
(毎月中旬更新予定)
連載第12回の「学び方のポイント」
不動産登記制度が、人々に情報を提供する基盤として、今、一つの改革を遂げようとしています。売買を原因として、ある人へ所有権の移転の登記がされているとしましょう。第一の問いは、その人が本当に所有者になった、と登記を見て信じてよいか? 第二の問いは、その人が今でも存命で所有者である、と登記を見て信じてよいか? 第三の問いは、その人が所有者になった原因が売買である、と登記を見て信じてよいか?
まず、第一の問いは、このたびの改革において解決が求められる課題ではありません。登記原因になった売買に無効や取消しの原因がないか、といったことを伝える役割は、もともと不動産登記制度が担うべき事項ではありません。それは、不動産登記制度の後進性を示す事象ではなく、本来、その事項を受け止める役割を不動産登記制度が引き受けていない、ということにほかなりません。
これに対し、第二の問いは、これこそ、まさに今般の改革が新しい解決を与えようとしているものです。
そして第三の問いは、うむむ、これが少し困りますねえ。このようなことは、あまり考えたことがありませんでした。残すと厄介ですから、この連載が終わらないうちに解決しておきましょう。この回は、これを扱います。そして、この第12回が連載の最終回です。いささかの時間をいただきますが、第二の問いの解決の姿が明らかになったところで、この連載を本にします。なお、それを待たず、電子書籍の出版は、これまでどおり時間を置かずにお届けしますから、ご覧くださるようお願いします。
連載第12回の「例題」
【例題1】
Aは、Bに対し500万円を貸し渡し、この融資の担保として、Bが、Bの所有する甲土地をAに対し担保として譲渡し、Aへの所有権の移転の登記をした。甲土地は、ひきつづきBが使用している。甲土地の価格は、830万円である。
(1) 融資の弁済期が経過した場合において、Bは、Aに対し、330万円の支払の提供を受けない限り甲土地を引き渡さないと主張することができるか。
(2) 融資の弁済期が経過した場合において、Bは、Aから甲土地を譲り受けたCに対し、330万円の支払の提供を受けない限り甲土地を引き渡さないと主張することができるか。
【例題2】
AのBに対する融資の担保として、Bが、Bの所有する甲土地をAに対し担保として譲渡し、Aへの所有権の移転の登記をした。その後、BがAに対し弁済期前に融資を返済するという経緯があったにもかかわらず、AがDに対し甲土地を売り、Dへの所有権の移転の登記をした。Bは、Dに対し、この登記の抹消を請求することができるか。
【例題3】
AのBに対する融資の担保として、Bは、Bが営む工場で使用している設備に属する機械をAに対し担保として譲渡した。ただし、Bは、この機械を工場において使用し続けている。やがて、この機械は、BからCへ売られ、Cに引き渡された。Aは、Cに対し、機械の引渡しを請求することができるか。
【例題4】
AのBに対する融資の担保として、Bは、Bが仕入れる事務用品の種類と保管場所を定め、これにより定まる事務用品をまとめてAに対し担保として譲渡した。この種類に当たる動産甲がDからBへ売られ、上記の保管場所に置かれた。Dは、Aに対し、動産甲について動産売買の先取特権を主張することができるか。
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1958年生まれ。亜細亜大学法学部専任講師、中央大学法学部助教授を経て現職。
著書に、『不動産登記法 第2版』(商事法務、2020年)、『ストーリーに学ぶ 所有者不明土地の論点』(商事法務、2018年)、『詳解 改正民法』(共著、商事法務、2018年)、『新・判例ハンドブック1、2』(日本評論社、2018年)、『物権法 第5版』(日本評論社、2012年)など。