公安委員会に属する事務を専決事項とすることの違法性─沖縄高江への愛知県警機動隊派遣住民訴訟(名古屋地判2020年3月18日)(稲葉一将)
◆この記事は「法律時報」92巻9号(2020年8月号)に掲載されているものです。◆
1 はじめに─裁判の経緯
沖縄北部訓練場における米軍のヘリパッド建設を盛り込んだ「沖縄に関する特別行動委員会最終報告」(1996年12月)を受けて、6か所で施設工事が開始された。これらの位置関係は、いずれも高江に近接する場所であり、その後、オスプレイ配備計画の存在も明らかになったので、米軍機による騒音等の深刻な被害を懸念した住民は、抗議活動を開始した。
これに対して、沖縄県公安委員会は、辺野古での新基地建設に反対する者らが高江の抗議活動に合流する可能性等種々の事態を想定したので、2016年7月12日に、東京都、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府および福岡県の各公安委員会に対して、警察法60条1項に基づき、警察職員の援助を要求した(沖公委(備二)第22号)。派遣を必要とする理由は、「沖縄県内における米軍基地移設工事等に伴い生ずる各種警備事象への対応」と記されており、派遣される警察職員の任務も、これと同じであった。なお、沖縄県公安委員会が援助要求を行う前日の11日に、警察庁警備局警備課長から警視庁警備部長および関係府県警察本部長宛に、「沖縄県警察への特別派遣について」と題する通知が発出されていた(警察庁丁備発第283号)。この通知に記載されていたのは、「派遣期間」および「派遣部隊」の「人員」である。その後、同年8月4日および9月21日にも同様の援助要求が行われ、いずれも6都府県から警察職員が派遣された。
当時は、沖縄県議会が「米軍北部訓練場ヘリパッド建設に関する意見書」(2016年7月)【PDF】を内閣総理大臣等宛に提出していたように、団体自治の主体である沖縄県が基地建設中止を国に要求していた。警察庁による「調整」が行われたことで6都府県の警察職員が高江に派遣され、そして現地の抗議活動が警備の対象とされたことによって、地方自治が意識されるようになった(地方自治法138条の3も参照)。違法な警備活動のために行われた給与支出行為も違法性を有するものとなると主張して、警察職員を派遣した都府県において、地方自治法242条の2第1項4号に基づき住民訴訟が提起されたのである。
東京地裁が2019(令和元)年12月16日に、名古屋地裁が2020(令和2)年3月18日に、それぞれ原告の請求を棄却した。本稿は、名古屋地裁3月18日判決の法的問題点を分析するものである。なぜなら、この判決文には、行政法学が放置できないと思われる複数の問題が、相互に関連しながら、あらわれているからである。このような分析作業が有する意義については、本稿のおわりに述べることとして、以下では、まず、本判決の概要を述べてから、その後で、法的問題点の分析作業を行うこととしよう。