コロナ・人権・民主主義(原田大樹)

法律時評(法律時報)| 2021.03.29
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」93巻4号(2021年4月号)に掲載されているものです。◆

1 コロナ

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって日常生活が大きく変容してから早1年が経過した。感染症そのものはこれまでも人類にとって脅威であったし、新たなウイルスの流行も今世紀に入って何度も発生してきた。しかし今回のコロナ禍は、感染者数の点でもそれが社会に与えた影響の点でも、それらとは大きく異なる。グローバル化がもたらした人の越境移動の量的な増大は感染拡大を早めることに寄与してしまい、グローバル・ヘルスの機能不全1)という負の側面だけに耳目が集まる結果になってしまったことは、グローバルな法制度の発展にとって大きな教訓となった。コロナ禍の直前まで訪日観光客が増加を続けていた日本では、観光需要によって支えられていた産業に対する悪影響が如実に表れた。もちろん、コロナ禍が日本社会にもたらした影響は、観光面以外にも多岐にわたる。

第1は、患者の多さに起因する問題である。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という)では、感染症の危険度に応じて患者への行動制限や医療提供を実施することとしている。新型コロナウイルス感染者は、無症状者でも他者に感染させる可能性があることから、どのように行動制限や医療提供を行うかが課題となってきた。第2は、事業者等に対する営業制限に起因する問題である。感染拡大を抑制するには人の密集を避ける必要があり、特に飲食業等に対する営業制限が求められた。感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という)には罰則を伴った営業制限はなく、その実効性が課題となる一方で、損失補償の必要性も議論された。第3は、リスク評価と社会活動との調整に起因する問題である。新型コロナウイルス感染症は、基礎疾患を抱えた高齢者では重症化しやすい反面、若年層では無症状のまま終わることも多いとされる。そこで、危険度に対して社会活動制限が厳しすぎるという見解と、若者でも後遺症が残ることから危険度を軽くみるべきではないという見解があり、専門家間でも感染の状況の評価や今後の対策をめぐる対立が続いてきた。本稿ではこれらの3点に絞って、これまでのコロナ禍対応の行政法制度の展開を簡略に総括することとしたい。

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脚注   [ + ]

1. 詫摩佳代『人類と病』(中央公論新社、2020年)142頁、五十嵐元道「WHOによる感染症情報の生成機能と限界」法律時報93巻1号(2021年)66-71(70)頁。