(第33回)AIの進展等により期待が高まるオンライン診療の法的リスクの所在とリスク軽減手段(濱野敏彦)
(毎月中旬更新予定)
寺本振透「オンライン診療と、そのリスクを軽減するプラットフォームの可能性」
Law & Technology 91号(2021年)1頁~12頁より
厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月、令和元年7月一部改訂)によれば、オンライン診療とは、「遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為」とされている。
オンライン診療では、触診を行うこと等ができないため、得られる情報が限られる。
しかし、近時、AIに関する技術のうち、ディープラーニングで作成したプログラムにおいて、医療画像を用いて疾患の有無を判定する精度が著しく向上してきている。例えば、X線画像の分析において、診断医の精度を超える事例が出てきている。そのため、専門医が少ない地域においても、医療機器により画像を取得することができれば、当該画像を医師に送り、医師が当該画像を確認し、また、ディープラーニングにより作成したプログラムによる当該画像の分析結果を踏まえて診断を行うことにより、オンライン診療による診断の精度が高まることが期待される。また、診断対象の部位によっては、患者が自ら携帯端末で診断対象部位を撮影し、画像を医師に送ることにより、同様に、オンライン診療による診断の精度が高まることが期待される。
このように、AIの進展等により、オンライン診療に対する期待が益々高まっているといえる。
本稿は、オンライン診療について、法的リスクの所在の探索と、リスクを軽減する手段を検討するものである。
そして、本稿は、特にその分析方法が特徴的である。本稿では、点等によって表される「ノード」と、ノードとノードをつなぐ線として表現される「タイ」を用いて、オンライン診療について、どこに、どのようなリスクがあり得るかを分析している。
具体的には、まず、従来の対面診療の場合について、「患者」、「医師」、「パラメディカル」、「医療スタッフ」、「PC等(院内)」、「医療機器等(院内)」、「診療録等の記録類」、「臨床検査機関等」、「薬剤師、薬局等」をノードとし、これらを結ぶ線をタイとする。
次に、オンライン診療について、上記の対面診療の場合にノードとしたものに加えて、「タブレットPC等(患者宅内)」、「医療機器等(患者宅内)」、「ルータ等(患者宅内)」、「ルータ等(院内)」、「4G等モバイル通信装置(院内)」をノードとして、さらに、これらを結ぶ線をタイとする。
そして、従来の対面診療の場合と、オンライン診療の場合において、ノードとタイについて、それぞれどのような相違が生じるかを整理した上で、オンライン診療を行う場合にどのようなリスクが生じ得るかを検討している。
例えば、ノードについては、①「患者」が、医療機関になりすましたウェブサイトに誘導される可能性があること、②「患者宅内の医療機器等」が、適切かつ適時に較正(測定器の狂い・精度を、基準量を用いて正すこと(新村出『広辞苑』(岩波書房、第7版、2018年)989頁))されていない可能性があること等が指摘されている。また、タイについては、①「医師」と「患者」の間のタイについては、従来の対面診療の場合と比較して、音声や画像の質が低下することにより、インフォームドコンセントの構築にマイナスの影響が生じ得ること、及び、患者がタブレットPC等を継続的に使いこなすのであれば、継続的に患者に情報を提供することにより、患者の同意を実質化していくことを支援できること、②「患者」と「医療機器等(患者宅内)」の間のタイ、及び、「医療機器等(患者宅内)」と「タブレットPC等(患者宅内)」の間のタイについては、患者が、医療機器の表示を読み間違ってしまうリスクがあること、及び、当該表示をカメラで撮影する等した画像を医師に送る方法が有効であること等が指摘されている。
このように、ノードとタイを用いた分析方法によれば、両者の差異により生じ得るリスク等について、詳細かつ正確に分析することができる。
また、このノードとタイを用いた分析方法は、2つの方法を比較して分析する場合に、一般的に採り得る優れた分析方法であるといえる。
特に、新たな方法を採用するか否かを検討する際には、漠然とした不安感から、新しい方法を採用することに消極的になってしまう場合があるが、上記のようにノードとタイを用いた分析を行うことにより、詳細かつ正確に、リスクの所在の探索と、リスクを軽減する手段を検討することが可能となる。
本稿は、このように、近時、期待が高まっているオンライン診療について、ノードとタイを用いた分析方法により、詳細かつ正確に、法的リスクの所在の探索と、リスクを軽減する手段を検討している点において、実務的な観点から示唆に富む論考である。
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2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。