(第1回)図式化をしてみよう!-令和2年司法試験予備試験問題を題材に(金井高志)/『民法でみる法律学習法 第2版』から

きになる本から| 2021.06.02
法律を整理して理解するツールとしての「ロジカルシンキング」を解説した『民法でみる法律学習法 第2版』。皆さんはもう試してみましたか?
これから3回にわたり、本書の学習法を実践する形でご紹介していきます。第1回・第2回では、令和2年司法試験予備試験の問題を題材に、本書の学習法を実際に使って事実を整理し、答案構成まで行います。
本書を読んだ方も、興味はあるけど迷ってる…という方も、ぜひ参考にしてみてください。
第1回目は「図式化」。担当編集Mによる手書き図でお届けします!

民法でみる法律学習法 第2版』で、第9章として「ロジカルシンキングに基づく答案作成」を追加しました。第9章は、「事例を図式化する方法」、「答案構成の方法」及び「答案構成に従った答案の作成」に分かれますが、本コラムでは、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題の設問1を題材に、「事例を図式化する方法」を紹介します。

私が法学部や法科大学院で講義をしている際に、学生の皆さんに、「事例問題について、図式化をしていますか?」と聞くと、「図式化をしないまま解答を始めています」と答える学生が少なくありません。

しかしながら、事例については、図式化しないと、簡単な事例であればまだしも、複雑な事例であると正確に事実関係を把握することができません。頭の中だけでの事実関係の把握では、細かい事実関係を間違える可能性が高まります。そのため、事例を図式化することで事例を完全に把握することは、事例問題の論述を行う上で必須です。このコラム、そして、このコラムの内容をより詳しく説明している『民法でみる法律学習法 第2版』の第9章を参考にして、事例を図式化する方法を身につけてください。

また、次の第2回のコラムでは、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題の設問1を題材にして、「答案構成の方法」を紹介します。

令和2年司法試験予備試験 民法の試験問題は、法務省のウェブサイトで閲覧することができます【PDF】

【事実】を読む前に〔設問1〕を読もう!

それでは、「【事実】を第1段落から読み進めていきましょう!」と言いたいところですが、【事実】を闇雲に読むのでは、解答を作成するための重要な視点が抜け落ちてしまう可能性があります。読者の皆さんの目的は、司法試験予備試験の答案を作成することですので、まず、設問で何が問われているのかを確認することが大切です。

〔設問1〕
Cは、本件消費貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することができるか。

設問を読むこの時点では、まだ【事実】を読んでいませんが、〔設問1〕から多くの情報を取得することができます。まず、CとAという主体が登場していることから、少なくともA、B、Cという3人が登場することを予想できます。次に、「本件消費貸借契約に基づき」とありますので、金銭の貸し借りが行われたであろうことも予想できます。そして、CがAに対して貸金の返還を請求することができるかが問われていますので、登場が予想されるA、B、Cという3人のうち、Cは、Bではなく、Aに対して請求するということもわかります。

〔設問1〕を先に読むことにより、事実の概要を想像することができ、また、今回の中心人物はCであることを理解することができます。これにより、Cの請求が認められるかという答案作成を行う際の重要な視点を持って、【事実】を読むことができるようになります。

【事実】を読む

それでは、【事実】を第1段落から読み進めていきましょう!

1.Aは、早くに夫と死別し、A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしていた(以下では、この土地及び建物を「本件不動産」という。)。Aは、身の回りのことは何でも一人で行っていたが、高齢であったことから、近所に住むAの娘Bが、時折、Aの自宅を訪問してAの様子を見るようにしていた。

まず、Aと夫の間には、婚姻関係があります。婚姻関係については、「=」で表現されることが多いものです。

次に、Aの夫は、早くに死亡していますので、死亡したことを意味する「×」を書きます。

また、Bは、AとAの夫の娘なので、婚姻関係を表す「=」から、出生を表す「|」を書きます。

■図1■

そして、Aは、A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしているので、土地と建物の記載を追加します。

■図2■

2.令和2年4月10日、Aの友人であるCがAの自宅を訪れると、Aは廊下で倒れており、呼び掛けても返事がなかった。Aは、Cが呼んだ救急車で病院に運ばれ、一命を取り留めたものの、意識不明の状態のまま入院することになった。

第2段落については、令和2年4月10日の出来事であるということを意識しておきます。
また、Aの友人であるCが登場していますので、Cを追加します。

■図3■

3.令和2年4月20日、BはCの自宅を訪れ、Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。Cは、Bから、Aの意識がまだ戻らないこと、Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが、突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き、無利息で100万円ほど融通してもよいと申し出た。そこで、BとCは、同日、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸すことに合意し、CはBに100万円を交付した(以下では、この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。)。本件消費貸借契約締結の際、BはAの代理人であることを示した。Bは、受領した100万円をAの入院費用の支払に充てた。

第3段落については、Aが倒れた令和2年4月10日の10日後である令和2年4月20日であることを意識しておきます。

また、同日BとCとの間で本件消費貸借契約が締結されており、

■図4■

その際、BはAの代理人であることをCに示しています。ただ、この時点で、Aは、意識が戻っていませんので、Bに対して代理権を授与することができる状態ではなかったことを理解しておく必要があります。

■図5■

4.令和2年4月21日、Bは、家庭裁判所に対し、Aについて後見開始の審判の申立てをした。令和2年7月10日、家庭裁判所は、Aについて後見開始の審判をし、Bが後見人に就任した。そこで、CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ、BはAから本件消費貸借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として、これを拒絶した。

本件消費貸借契約締結日の翌日である令和2年4月21日に、BがAについて後見開始の審判の申立てを行ない、

■図6■

令和2年7月10日にAの後見開始の審判がなされています。

■図7■

そして最後に、CがBに対して貸金の返還を請求しています。

■図8■

以上、令和2年司法試験予備試験の民法の論文式試験問題の設問1を題材に、事例を図式化してみました。この図があれば、事例がわかりやすく整理されていることから、答案を作成する際に間違った事実を基に論述をすることはなくなるはずです。このような図式化がとても重要であることがわかってもらえたと思います。

民法でみる法律学習法 第2版』では、この事例の図式化のように、法律学の初学者が学ぶ機会がほとんどない図式化の方法を詳しく説明しています。ぜひ、本書を法律の勉強の一助としていただければ幸いです。

◆本書について他のコラムを読む
第1回・第2回・第3回


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金井高志(かない・たかし)
フランテック法律事務所代表弁護士・武蔵野大学教授。
1981年東京都立両国高等学校卒業。1985年慶應義塾大学法律学科卒業。1987年同大学大学院法学研究科修士課程修了(民事法学専攻LLM)。1989年弁護士登録(第二東京弁護士会)。1992年アメリカ・コーネル大学ロースクール修士課程修了(LLM)。1993年イギリス・ロンドン大学(クイーン・メアリー・カレッジ)大学院修士課程修了(商事・企業法専攻LLM)。