(第10回)マインドフルに暮らす

みんなのストレス波乗り術(竹田伸也)| 2021.06.21
ストレスをなくそうとするのではなく、しなやかに対処する。海に浮かぶ発泡スチロールの船のように、大波にあらがうのではなく、波に乗って飄々とやりすごす。“波乗り”こそ、ストレスとつきあう一番の方法です。“みんな”のこころを楽にするストレスの波乗り術を、臨床心理学を用いてやさしくお伝えします。

(毎月下旬更新予定)

研究室での出来事

それは、研究室で仕事をしていて、ふと窓を見たときのことです。

窓と網戸の間に、ハエが閉じ込められていました。窓を開けたときにでも迷い込んだのでしょう。不憫に思った僕は、網戸を少しずらして隙間を作り、そこから外に出られるようにしました。

けれども、ハエは網戸の真ん中に止まったまま動かず、その隙間から外に出ようとしないのです。僕は、ハエが外に出たかどうかが気になって、何度も窓を見ては「まだ出てない」「せっかく逃がしてあげようとしているのに、なんで動かないの」とヤキモキしました。

そして、ふと思ったのです。「俺って、めっちゃせっかちやな。ハエが出られる環境を作ってあげたら、あとはいつ外に出るかは彼のペースに任せればいいやんか」と。そう思うと、なんだか力が抜けました。

今回、僕が注目したいのは、この話のなかに出てきた「せっかち」という態度です。せっかちって、急いで結果を出そうとする営みですね。今の世の中、なにかと急いで結果を出そうとし過ぎてはいないでしょうか。こうした態度が、個人もコミュニティも生きづらくしてしまうかもしれない。という視点から、ストレス波乗り術についてお話ししてみようと思います。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

竹田伸也(たけだ・しんや)
鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻教授。専門は、臨床心理学、認知行動療法。「生きづらさを抱えた人が生まれてきてよかったと思える社会の実現」をコンパスとして、その方向にそって自分にできることを進めている。最近は、自分のもつ弱さをかわいく思える技の開発に励んでいる。著書に、『マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック』(遠見書房)、『対人援助職に効くストレスマネジメント』(中央法規出版)など。