(第21回)外れ値をどうするか?:正当な理由なしに除外してはいけない
現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2021.07.19
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
まずは、研究を 1 つ紹介することから始めよう。
ある飼料会社の研究チームが、必須アミノ酸リシンを多く含むトウモロコシを開発した。そして、このトウモロコシがヒヨコの成長にどう影響するかを調べるために、次のような実験を行った [1]。
孵化後 1 日のオスのヒヨコ 40 羽を 20 羽ずつの 2 つのグループにわけ、片方には開発したトウモロコシを含んだ餌を与え (実験群)、もう片方にはトウモロコシ以外の成分は実験群と全く同じだが、通常のトウモロコシを含んだ餌を与えて (対照群)、21 日間飼育した。実験開始時と終了時にヒヨコの体重を測り、体重増加量 (g) を計算した。
麻生一枝 成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.