(第22回)ピアソンの相関係数 $r$:散布図をまず見ることが大切
現実を「統計的に理解する」ための初歩の初歩(麻生一枝)| 2021.08.19
私達が生きる現実社会の多くの問題の理解には,種々の数値の測定や観察とそれを「統計的に処理する」作業が欠かせません.毎日のニュースでもありとあらゆる機会に「数値」が出てきますが,その意味をきちんと考えたり信憑性を疑うことは、必ずしもなされていないようです.この連載では,誰でも知っておいてほしい統計についての基本的な考え方や, 統計にまつわる誤解や陥りやすい罠を紹介していきたいと思います.
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
相関というと、おそらく最もよく知られているのはピアソンの相関係数だろう。相関の強弱を測る指標で、通常 $r$ で表される。次のような文章で論文にも頻繁に登場するので、大学の論文講読の授業などで見たことのある人も、多いのではないだろうか。
小学 6 年生 200 人をランダムにえらび、そのひとり 1 人について知能指数と読解力テストの得点を記録した。この 2 変数の関係を調べたところ、統計的に有意な正の相関が見つかった ($r = 0.56,\,p = 0.01$)。
18 歳から 74 歳の男女計 1500 名について、HbA1c 値と空腹時血糖値との関係を調べたところ、$r = 0.73\ (p < 0.05)$ の相関が認められた。
さて、ここで質問なのだが、ピアソンの相関係数 $r$ で測られる「正の相関」とは、どのようなものかご存じだろうか。図1の A$\sim$C の中から選んでほしい。3 つのすべてで、片方の変数が増加するにつれて、もう片方の変数も増加している。しかし、ピアソンの相関係数で相関の強弱が測れるのは、1 つだけだ。
麻生一枝 成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.