序文(特別企画:嫌悪――ネガティブな感情はなぜ生じるのか)(編:中尾智博)
特別企画から(こころの科学)| 2021.10.18
心理臨床、精神医療、教育、福祉等の領域で対人援助にかかわる人、「こころ」に関心のある一般の人を読者対象とする学術教養誌「こころの科学」。毎号の特別企画では、科学的知見の単なる解説ではなく、臨床実践に基づいた具体的な記述を旨としています。そうした特別企画の一部をご紹介します。
(毎月中旬更新予定)
◆本記事は「こころの科学」220号(2021年11月号)の、中尾智博編「特別企画:嫌悪――ネガティブな感情はなぜ生じるのか」に掲載されている序文です。◆
「嫌悪」という感情は、人がもつ基本的感情の一つでありながら、学問的には取り上げられる機会が少ない印象を受ける。精神医学の領域においても不安や恐怖、怒りといった感情がよく扱われるのに対し、嫌悪に関する著書や文献は実際に少ない。その理由の一つは、本能的・反射的に我々が忌避したいと感じる感情だからかもしれない。しかし人の行動の多くがこの感情の影響を受けていることについては、学校や職場でのいじめ、性的な差別、精神疾患への偏見、新型コロナウイルス感染者へのこころなき中傷といった現代社会で起こっているさまざまな問題を見ても、それほど異論はないだろう。人の行動を理解するうえで、嫌悪について知ることは不可欠であるといえないだろうか。