はじめに 法律学へのいざない(村井敏邦)(特集:法学入門2021――法学者の本棚から学ぶ Part.1)
◆この記事は「法学セミナー」795号(2021年4月号)に掲載されているものです。◆
特集:法学入門2021――法学者の本棚から学ぶ Part.1
この春から、法学部へ入学する学生や、法を学びはじめようとしている読者のみなさまに各科目の教員がすすめる教科書・書籍を繙きながら、法律学の魅力・おもしろさをお届けいたします。
――編集部
1 はじめに
「あなたはどうして法律学をはじめたのですか」という問いに対する答えは、さまざまでしょう。ゲーテは「パンのために」と答えるでしょう。ドイツにおける刑法学の祖と言われるフォイエルバッハも、同じような答えをしたようです。17、18世紀のヨーロッパでは、法律学を修めることが世に出る手っ取り早い方法だったためです。
日本でも同様に、パンのための学問として法律学を始めた人はかなりいるようです。私の刑法学の師である植松正博士もその1人です。「法律学へのいざない」とタイトルしましたが、実をいうと、いざなわれ方は人によってさまざまだということです。したがって、私のこの1文は、あくまでも私個人の体験からのものであって、すべての人に当てはまるというものではないでしょう。それでも、参考になるところは、多少はあるでしょう。
2 法律への関心の誘因─弁護士プレストンからクロフツへ
私が法律家に向いているかもしれないと思ったのは、クロフツの『樽』を読んだ時です。当時、私は商学部に所属し、ドイツ経営学を勉強していました。商売人の父親から「弁護士は三百代言といって、黒を白と言いくるめる商売だ」と言われて育ったので、法律家になるなどいうことは、夢にも思わなかった。弁護士へのイメージを変えたのは、そのころ、教育テレビ(現在のEテレ)でやっていた連続テレビドラマ『弁護士プレストン』を見てからです。このドラマは弁護士の父と息子がときに対立しつつ、依頼された事件を解決していくという内容のものでした。今でも鮮明に覚えているエピソードに、高速道路での交通事故の話があります。運転者が居眠り運転による事故を起こしたとして起訴されるのですが、プレストン親子は、この事故が、道路の構造上の問題で運転者が眠気を誘われたことによって引き起こされたことを、法廷での実験によって証明して、被告人の無罪を勝ち取りました。