Home-Market Effectの実証

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2021.11.26
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Costinot, A., Donaldson, D., Kyle, M. and Williams, H.(2019) “The More We Die, The More We Sell” A Simple Test of the Home-Market Effect,ʡQuarterly Journal of Economics, 134(2): 843-894.

$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}\def\bs#1{\boldsymbol{#1}}$

菊池信之介

はじめに

なぜ国によって得意な産業が異なるのだろうか? なぜ特定の産業は特定の国に集積するのだろうか? このようなの問いに答えるためにさまざまな仮説が提示されてきた。中間投入財の輸送コストがあるから生産拠点を 1 箇所にまとめてしまった方が効率的であるという仮説や、たまたま昔にある地域で栄えた特定の産業がそのまま変わることなく集積しているという歴史経路依存性などと並んで、自地域市場効果 (Home-Market Effect) というものが注目されている1)。簡単に説明すれば、Home-Market Effect とは「需要の大きいところに需要のシェア以上の集積が起きる」というアイデアで、非常に直観的なものであるが、意外にも (きちんとした) 因果関係の実証は困難である。その因果関係を示すには、「需要」というものをきちんと理解 (識別) しなければならない。テクニカルな言葉で言えば、需要シフター (その財への需要を外生的に変化させるもの)を観察しなければならないが、そのようなものはなかなか現実にはないからである。たとえば国民経済計算などで各財への支出額を調べたとしても、その支出額は価格に依存するし、その価格は需要のみならず供給側の要因にも左右されるため、「需要の大きいところに需要のシェア以上の集積が起きる」ということを証明するうえでは、結局使い物にならない。

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脚注   [ + ]

1. これらの仮説について平易に書かれた解説として、空間経済学の第一人者である、藤田昌久氏のセミナーに基づく記事を挙げておく (藤田昌久「グローバル化と知の時代における空間経済学」 RIETI10 周年記念セミナー、2011 年〔https://www.rieti.go.jp/jp/events/tenth-anniversary-seminar/11011801.html〕)。より詳しく知りたい方は、藤田=クルーグマン=ベナブルズ (2000) を参照されたい。