男女賃金格差に潜む、在宅勤務のコスト

海外論文サーベイ(経済セミナー)| 2021.11.29
 雑誌『経済セミナー』の "海外論文Survey" からの転載です.

(奇数月下旬更新予定)

Adams-Prassl, A.(2020) “The Gender Wage Gap on an Online Labour Market: The Cost of Interruptions,” CEPR Discussion Paper, DP14294.

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奥山陽子

はじめに

「ジェンダー賃金格差解消の最後の伴は、働き方自体を見直し、労働時間をより柔軟にすることだろう」。経済史家クラウディア・ゴールディン氏は、2014 年の米国経済学会会長講演にてこう述べた。「A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter」1)と題されたこの講演は、働き方と男女賃金格差の関係について、数々の実証研究誕生のきっかけとなった2)

今回紹介する論文 Adams-Prassl (2020) もその 1 つである。本論文では特に、在宅勤務の新分野・クラウドソーシングに着目する。クラウドワーカーは、男女賃金格差の要因とされてきたことがらに直面しにくいため、クラウドソーシング市場では男女賃金格差が生じないと予想。しかしデータはその予想に反して、男女の時間当たり賃金格差が実に約 $20\%$ にものぼることを明らかにした。そして膨大な作業ログのデータを用いて理由を紐解いていくと、在宅勤務の隠れたコストが見えてきた。奇しくもコロナ禍で在宅勤務への需要が高まり、注目を集めた一稿である。

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脚注   [ + ]

1. Goldin (2014).
2. たとえば Cook et al.(2021) はライドシェア運転手に特有な働き方が、Bolotnyy and Emanuel (2021) はバス・鉄道運転手に特有な働き方が、男女賃金格差に与える影響をそれぞれ分析している。