(第3回)自閉スペクトラム症と診断されているわが子に統合失調症や注意欠如・多動症の薬を勧められたら?

子どもの心のお薬Q&A(岡田俊)| 2021.12.03
子どもが病院や診療所で心の薬による治療を薦められることは決して稀ではありません。子どもだって心が病むときも、その回復に支えが必要なこともあるのです。安易な薬物療法は望ましくありませんが、一律に避けてしまうというのも子どものためになりません。子どもの精神科薬物療法について、できるだけわかりやすくQ&Aでお伝えします。

(毎月上旬更新予定)

Q うちの子は自閉スペクトラム症なのですが、統合失調症の薬を飲むように言われました。なぜなのでしょうか?

お子さんが自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)と診断されたのは、どのようなきっかけだったでしょうか。言葉が出るのが遅い、同世代の子と遊ぶことや新しい環境が苦手といったことだったかもしれません。そうして診断をされてから、もう何年も経っているわけですが、いまさら「薬」と言われても、なぜ必要なのだろうか、統合失調症を併発したのだろうか、と親御さんが思うのも無理はありません。

実際、自閉スペクトラム症の薬を服用しても、言葉の発達をよくしたり、人と関わるスキルが向上したり、人と関わりたい気持ちが増すというわけではないのです。もっともよく使用されているのは、リスペリドンやアリピプラゾールといった「抗精神病薬」と呼ばれる統合失調症の薬です。自閉スペクトラム症のお子さんには、新しい状況で見通しがもてず不安になったり、自分のやりたいと思うことが邪魔されたりすると、かんしゃくを起こしてしまうことが少なくありません。こうしたときに、これらの薬剤を服用していると、いらだちが抑えられます。また、実際の服用した感触として、こだわりの強さ、感覚の過敏さ、気分が落ち着く、緊張が少しほぐれる感じがあるとおっしゃる親御さんもいます。このような効果により、学校や家庭での日常生活が送りやすくなるとすれば、抗精神病薬の服用も考慮の価値のある選択肢です。

親御さんの心配される大きな理由は、抗精神病薬を服用することによって、その子らしい思考や活動ができなくなるところまで精神活動を抑え込んでしまうのではないか、ということでしょう。昔からこういった鎮静を求めるような薬物療法は問題視されており、医師もそのようなことを目指してはいません。仮に、強い薬を必要とする状況があったとしても、そのような薬の使い方は一時的な処方にとどめる、つまり、状態が落ち着いたらもとの量に戻す必要があります。

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岡田 俊(おかだ・たかし)
精神科・児童精神科医師。1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科、デイケア診療部などの勤務を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所に勤務。