コロナ禍の自由と安全(小山剛)
法律時評(法律時報)| 2021.12.07
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。
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(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」93巻13号(2021年12月号)に掲載されているものです。◆
1 自由と安全のトレードオフ
安全は国家の存在理由であり1)、自由は憲法の存在理由である。安全は、自由が現実的な自由であるための前提であるが、自由と安全は、一般にトレードオフの関係に立つ。感染拡大を防ぐため、多くの国では、いわゆるロックダウンの措置がとられ、外出、営業、集会や催事、余暇や教育など、生活のほぼすべての自由が罰則を伴う禁止の下におかれた。一部の国では、個人情報保護の犠牲の下、各種の(広義の)監視による禁止の確保や感染者の追跡が行われている。
日本においても、どこか対岸の火事の感があった大型クルーズ船での集団感染からひと月もたたないうちに、市民生活は激変した。2020年2月26日、政府は全国的なスポーツ、文化イベントを「今後2週間は中止、延期、または規模を縮小する」ことを要請、翌27日には全国すべての小中高校などを3月2日から春休みまでの間、臨時休校するよう要請した。3月13日には新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」とする)改正法が成立、同法に基づき、4月7日には東京都など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が発出され、16日には対象が全国に拡大された。2021年の東京は、9月末に4回目の宣言が解除されるまで、宣言の発出・延長の繰り返しであり、批判の矛先は、特措法の実効性にも向けられた。
もとより、私権の制限には慎重でなければならない。この小論では、感染拡大初期から強制力ある法を備え、それを執行したドイツの裁判例を通じて、感染症対策と市民生活の自由とのバランスについて考えたい。
脚注
1. | ↑ | 国家目的としての安全に生命・健康の保護を含める見解として、G. Ress, Staatszwecke im Verfassungsstaat─nach 40 Jahren Grundgesetz, in: VVDStRL Band 48, 1990, S.56(90). |