序文(特別企画:解離に出会うとき)(編:兼本浩祐)

特別企画から(こころの科学)| 2021.12.17
心理臨床、精神医療、教育、福祉等の領域で対人援助にかかわる人、「こころ」に関心のある一般の人を読者対象とする学術教養誌「こころの科学」。毎号の特別企画では、科学的知見の単なる解説ではなく、臨床実践に基づいた具体的な記述を旨としています。そうした特別企画の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆本記事は「こころの科学」221号(2022年1月号)の、兼本浩祐編「特別企画:解離に出会うとき」に掲載されている序文です。◆

『心の解離構造―解離性同一性障害の理解と治療』の中でエリザベス・F・ハウエルは、こころを何人かの住む一つの国に準えている。そして、その住人たちは本来であれば緩い連合を結んでいて、一つの身体を共有した仲間のようにイメージされている。彼女の考えに従えば、解離が障害となるのは、こころが分裂してしまうからではない。そうではなくて、本来は、住人たちが、ああなのかこうなのかと話し合い、惑いつつ決めるべき共有する身体の行方を、ただ一人の住人が独断専行して決めてしまうために、他の住人がこの独裁者に対して反旗を翻し、住人たちの間で意思疎通ができなくなってしまったのが解離性障害だということになる。だから、ハウエル的なイメージでは、解離性障害の治療は、こころを一つに統一することではなくて、こころの住人同士の風通しをよくして、お互いが意思疎通をしながら、共有する一つの身体の運命を決めていけるよう促すことになる。真偽のほどは別として、私自身はこのハウエルのこころのイメージをとても気に入っている。

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