(第4回)自閉スペクトラム症のわが子に、こっそり飲み物に混ぜて薬を飲ませてもよいでしょうか? オキシトシンは効果があるのですか?
子どもの心のお薬Q&A(岡田俊)| 2022.01.04
子どもが病院や診療所で心の薬による治療を薦められることは決して稀ではありません。子どもだって心が病むときも、その回復に支えが必要なこともあるのです。安易な薬物療法は望ましくありませんが、一律に避けてしまうというのも子どものためになりません。子どもの精神科薬物療法について、できるだけわかりやすくQ&Aでお伝えします。
(毎月上旬更新予定)
Q 「うちの子は、知的障害と自閉スペクトラム症があります。最近、薬を飲むのを嫌がります。こっそりと飲み物に混ぜてもよいでしょうか?」
この質問にお答えするためには、精神科の難しい歩みからお話をしなければなりません。
統合失調症の患者さんにはお薬による治療が必要ですが、ご自身が病気であるという認識(病識)をもつことがなかなかできず、服薬に応じてくれないということがよくあります。服薬をしないことで幻覚や妄想に左右されるのは、ご家族が大変なだけではなく、本人の命にも関わる深刻な事態です。一昔前には、そのような場合に抗精神病薬の液剤などを、医師が本人も知らない状況で処方し、ご家族がお味噌汁などに入れて服用させるという状況がありました(非告知投与)。決して、当時も広く行われていたわけではなく、やむにやまれず、少数例行われていたことです。
しかし、これにはいくつかの問題がありました。仮に非告知投与で病状が落ち着いたとしても、その状況から何十年も脱することができず、ご家族が本人に本当のことを言っていないというつらい思いをされることがありました。また、途中でそのことが患者さんにわかってしまい、家族や医師への根強い不信感となり、以後、家族の作った食事に手をつけなくなったり、病院から遠ざかってしまったり、ということもありました。緊急避難的に非告知投与が許容される状況があったとしても、本人にそのことを早い時点で伝え、本来の治療の形に展開することが望まれたわけですが、多くの場合にその展開は容易ではなかったのです。そして、最終的に本人の同意のない処方行為は法的にも許容されないという見解が確定的となり、今日ではこのような処方は行われなくなっています。
岡田 俊(おかだ・たかし)
精神科・児童精神科医師。1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科、デイケア診療部などの勤務を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所に勤務。
精神科・児童精神科医師。1997年京都大学医学部卒業。同附属病院精神科神経科、デイケア診療部などの勤務を経て、2011年より名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科、2020年より国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所に勤務。