民事訴訟の場合(町村泰貴)/刑事訴訟の場合(斎藤司)(特集:交錯する手続法の世界)

特集から(法学セミナー)| 2022.01.28
毎月、月刊「法学セミナー」より、特集の一部をご紹介します。

(毎月中旬更新予定)

◆この記事は「法学セミナー」805号(2022年2月号)に掲載されているものです。◆

特集:交錯する手続法の世界

今や誰しもが自分事として捉えざるを得ない、デリケートな個人情報とされるGPS情報やDNA情報を、民事訴訟法と刑事訴訟法、2つの手続法が、それぞれの裁判手続のなかでどのように取り扱うのかを比較検討してみましょう。

両手続法の固有性と共通項を繙くことで、訴訟とはなにか、社会にとってどのような効果を持つのかを追及します。

――編集部

民事訴訟における違法収集証拠排除の理論と現代型証拠(町村泰貴)

1 はじめに

民事訴訟法は、伝聞法則や自白法則などが大きな比重を持って論じられる刑事訴訟と異なり、証拠能力が大きく取り上げられることは少ない。ただし、民事訴訟でも証拠能力が問題とならないわけではなく、訴訟代理権の証明(民訴規則23条1項)や疎明(民訴法188条)、手形訴訟や少額訴訟(民訴法352条、371条)など、一定の場合に証拠能力の制限があると説明されるし、証拠制限契約に基づく証拠方法の制限も証拠能力の問題だとされている1)。そして、いわゆる伝聞証拠についても、その事実を直接見聞した者に対する反対尋問の機会がないので、民事訴訟においても手続保障の観点から証拠能力を問題とする余地がある。ただし、判例は証拠能力の問題とせず、証拠評価の問題として裁判官の自由心証に委ねている2)

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脚注   [ + ]

1. 伊藤眞『民事訴訟法〔第7版〕』(有斐閣、2020年)373頁、新堂幸司『新民事訴訟法〔第6版〕』(弘文堂、2019年)596頁以下。証拠制限契約の効力を認めた例として東京地判昭和42・3・28判タ208号 127頁参照。もっともこれらを証拠能力の制限と呼ぶかどうかは問題のあるところである。なお、民事訴訟における証拠能力と証拠価値に関しては門口正人編集代表『民事証拠法大系 第2巻 総論2』(青林書院、2004年)69頁以下[内堀宏達]を参照。
2. 伝聞証拠も証拠能力は許容されるとした例として最判昭和27・12・5民集6巻11号1117頁。その他、反対尋問の機会のなかった本人尋問の結果を許容するものとして最判昭和32・2・8日民集11巻2号258頁(民事訴訟法判例百選〔第5版〕 138頁)など。なお、いわゆるロッキード事件児玉ルートの刑事捜査の過程で海外の司法機関が嘱託尋問を行ったコーチャン・クラッター調書が、その後同事件の被告人だった故人の所得税更正処分取消訴訟の被告側証拠として提出され、原告側の反対尋問を経ていないことから証拠能力が争われた最判平成7・6・29判時1539号61頁でも、証拠能力を認めた原審判断が是認されている。