鉄道と防犯の150年(和田俊憲)

法律時評(法律時報)| 2022.03.02
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻3号(2022年3月号)に掲載されているものです。◆

1 南国の鉄道の防犯訓練

乗初は延伸レール四区間     石田慶子
(『沖縄発の句文集 青き踏む』〔2021年〕より)

沖縄にも鉄道があるという話は、全国的な常識のレベルに達したと思われるが、2003年に那覇空港駅─首里駅間が開業した沖縄都市モノレール(ゆいレール)は、2019年10月1日、首里駅─てだこ浦西駅間が延伸開業し、敷設計画が完成した。道路交通の渋滞解消を主目的とした地域密着型の生活路線であり、那覇空港に降り立った旅行客が沖縄への旅心とともに乗車する路線でもある。

そのゆいレールで、2021年11月末、物々しい防犯訓練が行われた。走行中の車内で男が刃物で乗客を切りつけた状況などを想定し、鉄道会社・警察・消防の間で対応の連携が確認されたという(琉球新報2021年12月1日)。首里の丘を悠々と走る列車に凶悪犯罪は似つかわしくないが、編成が2両と短く閉鎖性が高いことに加えて、高架のモノレールであるために、車内でも車外にも乗客の逃げ場が少ないところに特徴がある。

この訓練は、同年8月および10月に東京の小田急線および京王線の車内で相次いで発生した乗客刺傷事件を受けて行われたものである。小田急線では、30代の男が乗客を刃物で刺すなどして10名が重軽傷を負い、また、京王線では、20代の男が刃物で乗客を刺すとともに、ライターオイルを撒いて火をつけ、乗客18名が重軽傷を負ったとされて、前者は殺人未遂、後者は殺人未遂および現住建造物等放火の被疑事実で、それぞれ逮捕されている(現住建造物等放火罪〔刑法108条〕の客体には「現に人がいる電車」が含まれており、それが適用されたものである)。

コロナ禍にあっては、あらゆる他人が感染の危険源として扱われうる。そのうえ無差別殺傷の可能性もあるとなれば、不特定多数の客を乗せて走る鉄道車両は、危険源の塊ということになろう。

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