(第44回)インサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシス(伊藤剛志)

弁護士が推す! 実務に役立つ研究論文| 2022.04.26
企業法務、ファイナンス、事業再生、知的財産、危機管理、税務、通商、労働、IT……。さまざまな分野の最前線で活躍する気鋭の弁護士たちが贈る、法律実務家のための研究論文紹介。気鋭の弁護士7名が交代で担当します。

(毎月中旬更新予定)

小塚真啓「連結におけるインサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシス:序説」

岡山大学法学会雑誌第70巻第3・4号(2021年3月)より

日本の基幹税の一つである所得課税(所得税・法人税)においては、所得を課税標準として課税する。所得の意義や解釈については、租税法の教科書等の説明に譲るが、通常、所得課税においては、収入が発生した、あるいは、発生したとみなされる時点において、その収入金額を基準に課税所得が計算される。もっとも、その収入を獲得するために一定の原資が投入されている場合には、その原資の回収に過ぎない部分は所得ではない。かかる原資回収の点は、我が国の租税制度の中では、必要経費の控除や譲渡資産の取得原価の控除等の問題として現れる。本稿の題名中にある「ベイシス」は、米国連邦税法中にも現れる概念であるが、我が国の所得課税の文脈で言えば、譲渡資産の取得価額ないし帳簿価額に相当するような概念である。

このような「ベイシス」は、個人のみならず、法人その他の事業体が経済取引の主体となり、課税上の取扱いを考えなければならないときには、事業体に特有の問題が生じる。法人その他の事業体は、その事業体自身が経済取引の主体となって資産のベイシス(取得価額・帳簿価額)を有する存在であると同時に、その出資者に所有される資産として出資者におけるベイシス(取得価額・帳簿価額)が与えられるものとなる。前者のベイシスはインサイド・ベイシスと、後者のベイシスはアウトサイド・ベイシスと呼ばれる。

このようなインサイド・ベイシス、アウトサイド・ベイシスは、しばしば、乖離することになる。例えば、次のような例を考えてみよう。Aが事業体Xに100を出資してXの出資持分を取得し、Xが100の土地を取得した。この時、AにおけるXの出資持分のベイシス(取得価額)と、Xにおける土地のベイシス(取得価額)はいずれも、100で同じである。その後、土地が200に値上がりしたときに、AがXの出資持分の全てを200でBに譲渡したとする。この時、BにおけるXの出資持分のベイシス(取得価額)は200であるのに対して、Xにおける土地のベイシス(取得価額)は100である。

岡山大学法学会雑誌第70巻第3・4号(2021年3月)

さらに、上記の例でXが土地を200で売却すると、Xが法人であり課税主体であれば、Xにおいて100の所得に対する課税が生じる。AがBに対してXの出資持分を200で譲渡したときに、Aにおいて100の所得に対する課税がされているから、土地の値上がりという経済的利益に対して、事業体段階(X)とその出資者段階(A)とで二重に所得課税が生じることとなる(なお、逆に土地が値下がりした場合には、事業体段階(X)とその出資者段階(A)とで二重に譲渡損失を実現させることも可能となる)。

このような構造から示唆されるのは、事業体(X)と出資者(A又はB)を所得課税上、一体のものとして扱うことを考えるのであれば、インサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシスの関係や調整の仕組みを整えることが必要と考えられる。法人税において、事業体と出資者を一体として扱おうとする制度の一つが連結納税制度である。小塚真啓・岡山大学准教授による本稿は、「連結の外側と内側とは、それぞれパラダイムを異にする別の“世界”であるにもかかわらず、“世界”を跨ぐ移動を通じて旧“世界”の事情が新“世界”に持ち込まれ」るとの観点から、法人税法における連結納税制度、連結納税制度を置き換えて導入されるグループ通算制度、米国連邦所得税法における連結申告制度を取り上げ、インサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシスの調整のあり方やその問題点を検討し、インサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシスとの関係を考える基礎を提供する。

インサイド・ベイシス及びアウトサイド・ベイシスは、パートナーシップ課税(ないしパススルー課税)の文脈において議論されることが多いが、連結制度の文脈におけるこれらの研究も興味深い。

本論考を読むには
・小塚真啓「連結におけるインサイド・ベイシスとアウトサイド・ベイシス:序説」【PDF】


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伊藤剛志(いとう・つよし)
1999年東京大学法学部第一類卒業。2000年西村総合法律事務所(現:西村あさひ法律事務所)入所。2007年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2016年より2019年まで東京大学大学院法学政治学研究科・客員准教授。主な業務分野は、税務、資産運用・金融取引。主な著書として、『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』(共編著、有斐閣、2020年)、『BEPSとグローバル経済活動』(共編著、有斐閣、2017年)、『ファイナンス法大全(上)・(下)〔全訂版〕』(共著、商事法務、2017年)等。