(第3回)データは「背景」をともなう数値:背景・比較対照のないデータは評価のしようがない
コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2022.06.16
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
あなたが聞いたこともない国の、見たこともない通貨 (単位カズ) を想像してほしい。その国から突然仕事の依頼を受け、月収は 500 万カズだと告げられたとしよう。さて、あなたはこの依頼を受けるだろうか。
おそらくどう判断していいかわからず、途方に暮れることだろう。なぜなら月収は 500 万カズと言われても、それがどれほどの価値のあるものなのか、まるで見当がつかないからだ。2LDK のアパートを借りたら家賃はどれくらいなのか。何カズ必要なのか。食費、光熱費、通信費は月にどのくらいかかるのか。月ごとの教育費は子ども一人当たりどれくらい必要なのか。こういった背景となる情報、つまり比較対照の基準となるものがないと、一見多そうに見える「500 万」という数値も、それが多いのか少ないのか、判断のしようがないのである。
麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.