従業員代表制の常設化よりも労組法の見直しを(道幸哲也)
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月刊「法律時報」より、毎月掲載。
(毎月下旬更新予定)
◆この記事は「法律時報」94巻6号(2022年6月号)に掲載されているものです。◆
1 集団的決定の必要性
時代が大きく変貌したのにもかかわらず、ほとんど本格的な見直し・改正がなされていない法制度として労働組合法がある。それが時代に適合していたならば問題はないが、現行労組法が成立した1949年以来、保護対象である労働組合の組織率も社会的プレゼンスも大幅に低下している。とりわけ、最近の忖度と無関心の社会的風潮は組合組織の解体に決定的な影響を与えていると思われる。にもかかわらず、労働組合法の見直しの気配はない(労組法の問題点については、拙稿「労働組合法の見直し」『北海道大学社会法研究会50周年記念論集 社会法のなかの自立と連帯』〔労働旬報社、2022年〕23頁)。
個別的労働法については、その間に労働契約法はじめ多くの立法がなされ、裁判例も充実している。とりわけ近時労働時間やハラスメント問題について身近な紛争が多発している。ここで注目すべきは、労働時間性の認定のためには職場実態が重視され、ハラスメントは人間関係紛争という色彩が濃いために、個別事案の法的な処理だけではなく職場におけるルールの設定・実現が要請されていることである。
集団的労使関係に留意すべきことは働き方改革の一環としても指摘されている。たとえば、立法レベルでは派遣労働者に対する差別につき不合理な待遇の禁止を定める(派遣法30条の3)とともに労使協定による適用除外を認めている(同法30条の4)。裁判例においても労働契約法20条の解釈として非正規差別の合理性の一要素として労使交渉の経緯が指摘されている(長澤運輸事件・最二小判平成30・6・1労働判例1179号34頁)。
この種事案につき裁判法理の充実だけでは適正な紛争解決ができず、関連する職場ルールを集団的に決定する必要性が意識されるようになっている。職場における集団的決定の担い手は労働組合に他ならないが、労組法自体の見直しの動きもない。むしろ従業員代表制の常設化に期待する見解のほうが有力である。