(第11回)最初の3日間に善良人の判断に従って試味がなされよ
機知とアイロニーに富んだ騎士と従者の対話は、諺、格言、警句の類に満ちあふれています。短い言葉のなかに人びとが育んできた深遠な真理が宿っているのではないでしょうか。法律の世界でも、ローマ法以来、多くの諺や格言が生まれ、それぞれの時代、社会で語り継がれてきました。いまに生きる法格言を、じっくり紐解いてみませんか。
(毎月上旬更新予定)
In triduo proxumo viri boni arbitratu degustato.
(M. Cato, De agri cultura 148)
イン・トリードゥオー・ブロクスモー・ウィリー・ボニー・アルビトラートゥー・デーグスタートー
(カトー『農事書』148)
アピキウスの料理書
今年になってポンペイ展が各地で巡回開催されるのに合わせて、古代ローマに関するさまざまな特集番組も放送されていて、ご覧になった方も多いであろう。
30年ほど前、NHK・BS放送で、古代ローマの料理を再現した番組が放映されたことがあった。案内役の荻野目慶子さんが、復元された豚の丸焼き料理に、目を丸くされていたシーンがとても印象的であった。VHSビデオテープも今となっては再生することが難しくなってしまい、実際にどのような料理であったのか、具体的に思い出せずにいた。最近、あきらめていたビデオテープをデータ化してもらう機会があり、数十年ぶりにその中身を確かめることができた。タイトルは「アピキウスの料理書-復活古代ローマ料理」というものであった。古代ローマ料理のレシピ集としても知られる、「アピキウスの料理書」をもとに、古代ローマ料理の復元を試みたものであった。アピキウス自身について詳しい歴史資料はなく、その生涯についてはあまりわかっていない。一説ではアウグストゥス帝とティベリウス帝の時代(前80年から紀元40年頃)の人とのことで、財産を食のために蕩尽したといったエピソードをセネカなどは伝えている。「アピキウスの料理書」は、実際には4世紀頃に編纂されたともいわれ、彼が唯一の著者というよりも、後代に修正、加筆されたものであるらしい。
件の豚の丸焼き料理は、「トロイのポーク」というものであった。その名前はもちろん「トロイの木馬」の故事にちなむという。トロイア戦争の折り、木馬のお腹に隠れたギリシャ方の兵士に見立てて、豚のお腹にいろいろな詰め物をしたことから、その名前が付けられたという。実際、子豚のお腹を開いて内臓を取り出し、その代わりに、テレビのレシピでは、うずら(これも内臓を取り出し、セロリなど詰め合わせて調理されている)、ゆで栗、ソーセージ(腸詰め)、ゆで卵、ガチョウの肝臓をつめて、塩、香辛料などで味付けして、お腹を綴じ直し、表面に蜂蜜を塗布し、香味野菜を添えて、そのままオーブンで焼き上げるというものであった。調理の過程をみただけでお腹が一杯になってしまい、手をつけるためには、勇気とエネルギーが必要になりそうであった。
1951年生まれ。広島大学名誉教授。専門は法制史・ローマ法。