言葉から内面を探る
Bollen, J., Ten Thij, M., Breithaupt, F., Barron, A. T., Rutter, L. A., Lorenzo-Luaces, L. and Scheffer, M. (2021)“Historical Language Records Reveal a Surge of Cognitive Distortions in Recent Decades,” Proceedings of the National Academy of Sciences, 118(30, e2102061118.
松井暉
はじめに
「初めに、ことばがあった」1)。言葉は私たちにとって欠かせない道具である。ヒトが言葉を話し始めてから、記録のための道具として言葉を利用できるようになるまでには長い時間を要した。しかし、言葉で記録ができるようになってから現在に至るまでにも、また途方もない年月が経っている。人類の歴史の記録は言葉を通じて受け継がれ、人々は自らの考えを書き残してきた。私たちが残してきた言葉は、過去の私たちがどのようにこの世界を認知してきたかを知る手がかりとなる。
今回紹介するのは、複数の言語で過去 100 年以上にわたって出版された書籍を分析することで、人間の認知の変化を分析しようとした論文である。論文では、人間の認知に関わる言葉、特に「認知の歪み」に関連すると考えられるフレーズの出現の推移に注目している。本論文は、インディアナ大学とワーゲニンゲン大学のコンピューターサイエンティストや心理学者によって PNAS2)に出版された。本稿では、本論文の出版後に出版された本論文に対する批判レターと、本論文の著者らによる反佀レターを紹介しながら、本論文のエッセンスを紹介する。
脚注
1. | ↑ | 『新約聖書 (新改訳) 』「ヨハネによる福音書」第 1 章。 |
2. | ↑ | Proceedings of the National Academy of Sciences (米国科学アカデミー紀要). |