『文様折り紙テクニック—1枚の紙から幾何学模様を生み出す「平織り」の技法』(著:山本陽平・三谷純)
- #一冊散策
まえがき
本書は,幾何学的な模様を 1 枚の紙で折り出すための方法と,実際に著者らが作成した作品を展開図とともに紹介する,折り紙の本です.
紙を折って形を作る「折り紙」は,時代と国境を超えて多くの人に親しまれながら進歩しています.とくに,鶴や兜のような,具体的な「かたち」を作り出す折り紙が,我が国の日本の伝統的な遊戯の 1 つとして根付いています.一方,本書で取り上げるのは,そのような具体的な「かたち」ではなく,幾何学的な「模様」を作り出す折り紙です.20 世紀後半に桃谷好英や藤本修三らによって広められた幾何学模様を 1 枚の紙から折り出す技法は,海外で「 Origami Tessellation」と呼ばれ親しまれています.日本では藤本の命名による「平織り」という用語もよく使われます.本書では,この Origami Tessel lation,平織りに焦点をあて,折り紙の理論によって導き出された,新しい設計方法について解説を行います.
建物の壁や絨毯,衣類や陶器など,身の回りのさまざまなものに,規則的な幾何学模様が描かれ,私たちの生活を豊かにしています.このような,ものの表面を装飾する図柄のことを「文様」と呼び,日本においては,市松模様や麻の葉模様などの和柄が伝統的なものとして広く知られています.本書の作品には,広く知られている文様をモチーフにしたものが多いことから,本書で扱う折り紙作品を「文様折り紙」と呼ぶことにしました.
多くの作品は,折り線が複雑に配置されているように思えますが,その設計に使用する理論は極めてシンプルです.数多くの写真とその設計図である「展開図」を用い,基本から応用まで,段階を踏んで作品の設計方法を紹介します.
本書をとおして,新しい折り紙のアート,文様の文化,理論に基づく作図のテクニックといった,折り紙に関係する多様な側面を,多くの方と共有できれば幸いです.
山本陽平・三谷 純
おわりに
私は,子供のころから手を動かしてモノを作ることが好きでしたが,折り紙の設計方法を追求するようになったのは,5 年ほど前からになります.当時,紙のグシャグシャとしたシワが規則的な模様に見えたため,このシワを使えばさまざまな模様が作れるのではないかと考えたことがきっかけです.それ以来,こうして計算されたシワを追求することで,さまざまな文様を折り出せるようになりました.そして,折り合い文様の展開図を設計する過程で,手作業で試作品を繰り返しつくことが,規則性を発見することにつながりました.手作業でモノを作りながら考えるスタイルは,共著者であり恩師である筑波大学の三谷純教授のスタイルに沿うこともあり,同教授のもとで,折り紙を対象にノビノビと研究させていただいております.その結果,こうした成果を,私の銘が打たれた本としてまとめることができました.折り紙と文様という,どちらも日本の文化として親しまれているものを融合させた「文様折り紙」の魅力を,多くの方にお届けできたとしたら,これに勝る喜びはありません.
山本陽平
折り紙というものは,1 枚の紙を折るという,ただそれだけのことですが,なかなかに奥が深いようです.展開図と折り出される形の関係について,幾何学的な側面からいろいろ考えをめぐらすことで,さまざまなパターンを折り出す方法が明らかになります.本書で対象とした Origami Tessel lation に対しても,新しい設計理論とコンピュータ,そしてカッティングプロッタという,現代の技術を組み合わせることで,従来よりも自由度の高い,複雑なパターンを折り出せるようになりました.その中心となった「ねじり作図法」という作図方法は,私の研究室の学生であった山本陽平君が考案した,極めて汎用性の高い作図方法です.作品のテーマである,文様と折り紙の融合を通して,本書で示した設計理論の有効性と,新しい折り紙の分野の可能性を感じていただければ幸いです.本書の文章,図,作品例のほぼすべてが山本君の手によるものです.私は,論文原稿を添削するような感覚で文章の手直しをさせてもらいました.このように,研究室の学生とともに書籍を出版できることは,大学教員の冥利に尽きます.
三谷 純
目次
- はじめに
- 序章 文様と折り紙
- 0.1 文様折り紙の系譜
- 0.2 展開図
- 0.3 平坦折りの理論
- 0.4 平坦折りと鏡映変換
- 0.5 平坦折りとねじり折り
- 0.6 テセレーション
- 0.7 折り紙制作のヒント
- 1 正方形格子を折る
- 1.1 正方形のねじり折り
- 1.2 直角二等辺三角形のねじり折り
- 1.3 市松模様を折る
- 1.4 折り返しながら考える
- 1.5 輪郭の折りたたみ方を活用した連結
- 作例1 市松
- 作例2 ひし形の連結
- 作例3 変形市松
- 作例4 ピラミッド
- 作例5 ピクセルアート その1
- 作例6 ピクセルアート その2
- 理論を知りたい人のために―1
- ピクセルアートの文様折り紙の設計
- 2 三角形格子を折る
- 2.1 正三角形のねじり折り
- 2.2 正六角形のねじり折り
- 2.3 直角三角形のねじり折り
- 作例7 鱗
- 作例8 散らした鱗
- 作例9 正三角形の連結
- 作例10 亀甲
- column1 格子とねじり折り
- 3 三角形のねじり折りを連結する
- 3.1 三角形のねじり折りの作図
- 3.2 三角形のねじり折りの連結
- 3.3 正多角形のパターンの作図
- 作例11 星
- 作例12 鋭い星
- 作例13 六花
- 作例14 正方形の風車
- 作例15 正十角形のイスラム模様
- 作例16 亀甲枠の連結
- 作例17 六花の連結
- 作例18 七宝の連結
- column2 Triangle Twist Pattern Makerの使い方
- 理論を知りたい人のために―2
- プリーツ基準線の位置と長さ
- 4 異なるパーツを連結する
- 4.1 ねじり作図法による展開図と輪郭
- 4.2 パーツと正平面充填
- 4.3 等辺多角形のパーツの平面充填
- 4.4 パーツの配置と空白の領域
- 作例19 手裏剣
- 作例20 六花のメタモルフォーゼ
- 作例21 花の連結
- 作例22 正方形の風車の連結
- 作例23 正五角形の連結
- 作例24 星型の連結
- 作例25 正十角形のイスラム模様の連結
- 作例26 六角形のイスラム模様の連結
- 作例27 ペンローズタイリング
- 作例28 異なる六花の連結
- 理論を知りたい人のために―3
- 輪郭を収縮するように折りたためるガイドの条件
- 5 表現したい模様を作図する
- 5.1 文様折り紙と単色の模様
- 5.2 ねじり作図法と多角形面
- 5.3 単色模様を表現する展開図の作図
- 作例29 ハート
- 作例30 星が浮かび上がる正方形
- 作例31 オハイオスター
- 作例32 籠目
- 作例33 麻の葉
- 作例34 毘沙門亀甲
- 作例35 桜
- 作例36 武田菱
- 作例37 麻の葉と毘沙門亀甲の連結
- 理論を知りたい人のために―4
- プリーツ基準線の変更が展開図に与える影響
- column3 Origami Tessellationの設計ソフトウェア『Tess』
- 6 ジャバラを折る
- 6.1 平行に並んだ線を折る
- 6.2 ジャバラを折り曲げる
- 6.3 縦横に周期的なジャバラ
- 6.4 不規則なジャバラを折り曲げる
- 作例38 台形の折り返し
- 作例39 山脈
- 作例40 ブロック蛇腹
- 作例41 ドーム
- 作例42 ペアノ曲線
- 7 ねじり作図法を応用する
- 7.1 作図に使用されたガイドを復元する
- 7.2 展開図の規則とガイドの規則
- 7.3 離れた位置にあるガイドの連結
- 作例43 あじさい折りの変形
- 作例44 放射する市松
- 作例45 二崩し
- 作例46 風車
- 作例47 直角三角形の鱗
- 作例48 山路文
- 作例49 矢絣
- 作例50 音符
- column4 文様折り紙と曲線折り紙の連結
- おわりに
- 参考文献
書誌情報など
- 『文様折り紙テクニック—1枚の紙から幾何学模様を生み出す「平織り」の技法』
- 著:山本陽平・三谷純
- 紙の書籍
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定価:税込2420円(本体価格2200円)
- 発刊年月:2022年8月
- ISBN:978-4-535-78966-1
- 判型:B5判
- ページ数:152ページ
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関連情報
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