アメリカ連邦最高裁判所による中絶判例の全面変更――なぜ1992年ではなく2022年か(見平 典)

法律時評(法律時報)| 2022.08.29
世間を賑わす出来事、社会問題を毎月1本切り出して、法の視点から論じる時事評論。 それがこの「法律時評」です。
ぜひ法の世界のダイナミズムを感じてください。
月刊「法律時報」より、毎月掲載。

(毎月下旬更新予定)

◆この記事は「法律時報」94巻10号(2022年9月号)に掲載されているものです。◆

1 はじめに

2022年6月24日、アメリカ連邦最高裁判所は、事前に判決草稿がリークされるという異例の経過を辿ったダブズ対ジャクソン女性保健機構事件の判決を下した。全米の注目を集めた本件において、同裁判所は、人工妊娠中絶に関する女性の自己決定権を憲法上の権利として認めた1973年のロー対ウェイド判決を、「当初から甚だしく誤っていた」と強く非難し、5対4の僅差で覆した。多数派の5名は、いずれも中絶・ロー判決に反対する共和党政権によって任命された裁判官であった。

今回の判例変更は、日米のマス・メディアによって広く指摘されているように、裁判官人事を通してロー判決を覆そうとしてきた歴代共和党政権の司法戦略の帰結といえる。3名の裁判官による共同反対意見も、今回の判例変更が「当裁判所の構成が変化したという、1つの理由、たった1つの理由」によるものであると述べて、裁判官の顔ぶれの変化との関係を指摘している。

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について