(第7回)ワクチンと接種後死亡・副反応疑い:因果関係の評価はむずかしい

コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2022.10.14
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.

(毎月中旬更新予定)

前々回お話ししたように、どんなワクチンにもふつう何らかの副反応がある。そして、副反応のすべてが、ワクチン承認前の臨床試験によって明らかになるわけではない。極めて稀な副反応は、被験者数に限りのある臨床試験では見つかりにくい。また、ワクチンの長期的な影響も、期間の限られた臨床試験ではわからない。

この 1 年半あまり、私たちは、この事実を身をもって学んできた。最初は、「副反応は接種部位の痛み、発熱、疲労、頭痛など軽度のものがほとんどで、それも接種後数日で回復する。注意しなくてはならないのは、アナフィラキシー (急性のアレルギー反応) くらい」と聞かされていた。しかし、程なくして (2021 年 4 月)、アストラゼネカ製ワクチン接種後に血栓症で亡くなった人がいたというニュースが流れてきた[1]。と思っていたら同年 7 月、ファイザー社とモデルナ社のワクチンの副反応として、心筋炎・心膜炎の存在が指摘され始めた[2]

このコンテンツを閲覧するにはログインが必要です。→ . 会員登録(無料)はお済みですか? 会員について

麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.