『経済論文の書き方』(編:経済セミナー編集部)
- #一冊散策
はしがき
1 本書のねらい
大学の授業やゼミなどでレポートや論文を執筆する課題が出たときに、困ったことはないでしょうか。また、いきなり論文を読んで内容をまとめて発表する機会に直面して、戸惑ってしまったことはないでしょうか。その著者の新たな研究成果がまとめられた論文には、教科書や一般的な記事とは異なる、独特の作法や型があり、それに慣れるまでは、何だか得体のしれない怖い存在のように見えたり、独特の言い回しや学術用語が満載だったりして、読み進めるのもなかなか大変だと感じられることがあるかもしれません。
近年は、レポート・論文執筆に関する指導も充実してきています。たとえば、各大学で詳細な資料が提供されていたり、入学初年次から少人数演習などのクラスで学んだりと、従来よりもレポートや論文に触れる機会は多くなっていると思います。また、論文の読み方や書き方を教えてくれる優れた書籍もたくさん出版されています。
しかし、実際にどのように自分の研究テーマを検討しつつ読むべき論文を探し、テーマを決め、自分の論文の構成を練り、実際に書き進めていけばよいか、といった具体的なステップには学問の分野ごとに独特な部分もあります。そこで、日本評論社が隔月で発行する経済学の学習雑誌『経済セミナー』 (『経セミ』) では、「経済学分野に特化した論文の書き方」をお伝えすることで、これからレポートや論文を書こうという読者の皆さまに少しでも役立てていただきたいと思い、2020 年 8・9 月号と 21 年 8・9 月号の 2 回にわたり、論文を読む・書く際に知っていると助かる基礎知識、役立つツールや情報源、自身の研究テーマの選び方や執筆にあたってのコツ・心構えなどをまとめた特集を組んできました。2020 年は「実証編」、21 年は「はじめの一歩編」と題して、各シーンで必要となる情報を、教育の現場でさまざまに工夫を凝らしておられる先生方にご執筆いただき、日ごろのご指導の内容を共有いただきました。本書は、この『経セミ』の特集内容をさらに拡充し、新たな内容も多数盛り込んで、「経済学分野で論文を書くための基礎知識」を提供すべくまとめた書籍です。特に、『経セミ』の特集ではほとんど盛り込むことのできなかった、「理論の論文を書く」際のノウハウをお伝えする各章や、その他のより実践的なコツ・心構えを伝える各章を追加しています。
2 本書の構成
本書は、以下の 4 つの部で構成されています。
- 第I部 はじめの一歩編
- 第II部 実証編
- 第III部 理論編
- 第Iv部 技法編
第 I 部では、はじめて論文に触れる方々に向けて、「論文とは何か?」という最も基本的なところから、自分で研究する際の問い (リサーチクエスチョン) のみつけ方、先行研究の探し方、実際に論文を書き進めるうえでのコツを解説します。
第 II 部では、実証分析を使って論文を書こうと考えている場合を想定して、データの探し方やデータの性質・特徴、実証論文の構成、実際に書き進めるうえでの留意点などを幅広く説明するとともに、データの所在等についても多くの実践的な情報を盛り込んでいます。さらに、経済実験やフィールドでのアンケート調査等を通じた独自のデータの作り方も解説します。
第 III 部では、経済理論をメインに論文を書く際に知っておくべき基礎知識や作法、心構えについて詳しく解説します。とくに、ミクロ経済学やゲーム理論、その応用分野において、どのように学習を進めて知識を身に付け、論文のテーマを選ぶか、どのように構成を考えていくか、実際に書き進めていくためのコツなどがまとめられています。また、マクロ経済学の動学的一般均衡 (DSGE) モデルを用いた政策分析を論文にまとめるうえで必要な基礎知識も提供します。第Ⅳ部では、実際に論文を執筆したり、書き上げた論文に基づいて発表したりする際の具体的なテクニックや心構えについて解説します。アカデミック・ライティングや研究発表の具体的な方法をお伝えするとともに、学生が主催する大規模な論文発表大会である ISFJ (日本政策学生会議) での発表に向けた取り組みの事例、および実際に現地に赴いて実施するフィールド調査に基づいて論文を執筆するゼミの事例を通じて、より実践的に論文の執筆・発表に関するさまざまな情報をお伝えします。
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本書はこのようなねらいと構成で、経済学で論文やレポートを執筆する際のさまざまなニーズに幅広くお応えすべく、『経セミ』特集の内容をさらにパワーアップさせて一冊の書籍にまとめたものです。本書を通じて学術論文に少しでも親しんでいただき、さらには実際のレポート・論文の作成にお役立ていただくことができればと願っています。
2022 年 7 月
経済セミナー編集部
目次
- 第1部 はじめの一歩編
- 第1章 座談会「論文の書き方はどう教えている?」【中室牧子・平賀一希・室岡健志・森知晴】
- 第2章 統計分析で論文を書くための手順とコツ【小原美紀】
- 第3章 独自性のある経済論文を書くコツ【萩原里紗】
- 第4章 経済論文執筆の「はじめの二歩目」と具体例【本田圭市郎】
- 第5章 論文を書くということ【横山和輝】
- 第2部 実証編
- 第6章 近年の実証分析の動向と学部教育【加藤久和】
- 第7章 データのみつけ方・集め方【水落正明】
- 第8章 ミクロ実証論文執筆の落とし穴とアドバイス【安井健悟】
- 第9章 金融時系列データ分析を用いた論文の書き方【熊本方雄】
- 第10章 独自データのつくり方——フィールド調査の手順【高橋遼】
- 第11章 経済実験論文の書き方【犬飼佳吾】
- 第3部 理論編
- 第12章 「肩肘張らない」理論論文の書き方【三浦慎太郎】
- 第13章 理論論文を書くときに気をつけること【宮城島要】
- 第14章 応用理論で論文を書く——産業組織論のケース【善如悠介】
- 第15章 動学的一般均衡モデルを用いたマクロ経済政策論文の書き方【廣瀬康生】
- 第4部 技法編
- 第16章 アカデミック・ライティングを知ろう!【渡邉真理子】
- 第17章 研究発表のコツ【森知晴】
- 第18章 対談「ISFJの活動から見る経済論文を書くコツ」【赤井伸郎・千田亮吉】
- 第19章 ゼミの活動から見る経済論文を書く際の心得【栗田匡相】
書誌情報など
- 『経済論文の書き方』
- 編:経済セミナー編集部
- 紙の書籍
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定価:税込2200円(本体価格2000円)
- 発刊年月:2022年9月
- ISBN:978-4-535-54042-2
- 判型:A5版
- ページ数:196ページ
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追加情報
本書の補足資料や、その他参考情報などを、以下のウェブサイトにて公開しています。本書とあわせて、ぜひご利用ください。
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