(第8回)「原因は 1 つだけ」と考えるのは間違い:ワクチンが最後の引き金かもしれない
コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2022.11.14
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.
(毎月中旬更新予定)
最初に、新型コロナワクチン接種後に亡くなられた方々の事例報告1)を、3 つほど読んでいただきたい。
報告中、因果関係 (報告医評価) は、ワクチン接種と死亡との因果関係、他要因の可能性の有無は、ワクチン以外に死亡の原因と考えられるものがあるかないか、と解釈していいだろう。専門家によるワクチンと死亡との因果関係評価 $\gamma$ は、「情報不足によりワクチンと死亡との因果関係が評価できないもの」である。実際の報告では、事例はエクセルの表にまとめられている。
事例1
- 年齢:26 歳
- 性別:女
- 接種日:2021 年 3 月 19 日
- 発生日 (死亡日):2021 年 3 月 23 日
- 接種回数:1 回目
- 基礎疾患等:無
- 死因等 (報告者による見解・考察等):脳出血 (小脳)、くも膜下出血
- 報告医が死因等の判断に至った検査:死亡時画像診断 (CT)
- 因果関係 (報告医評価):評価不能
- 他要因の可能性の有無 (報告医評価):有り (脳出血 (小脳)、くも膜下出血)
- 専門家によるワクチンと死亡との因果関係評価:$\gamma$
- コメント:剖検などの精査は実施されておらず、出血源の確定には至っていないものの、死亡時画像診断 (CT) にて、小脳半球から小脳橋角部にかけて石灰化を伴う血腫を認めており、出血リスクが高い病変が存在していた可能性が示唆される。ワクチン接種が脳出血の発症や死亡にどのような影響を与えたかは不明である。
脚注
1. | ↑ | 第 80 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和 4 年度の資料からの抜粋である。第 80 回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和 4 年度第 5 回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会 (合同開催) 2022 年 (令和 4) 6 月 10 日 資料 1-3-1 より抜粋。厚生労働省 HP から pdf ファイルをダウンロードして読む人は少ないと思い、敢えて 3 例紹介した。一度は全体に目を通すことをお勧めする。 |
麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.