(第11回)仮説の検証は科学的研究の真髄:検証なしの感染予測は科学とはみなせない
コロナと数字と科学:ニュースに右往左往しないためのリテラシ(麻生一枝)| 2023.02.15
新型コロナ感染症に関する報道をはじめ,私達は,日々膨大な「データ」や「グラフ」や「科学用語」に接しています.しかし,ともすると,深く考えないまま鵜呑みにしてしまう危険性が常につきまとっています.この連載では,「データ」や「グラフ」を解釈するときのキーとなる基本的な考え方について紹介してゆきます.
(毎月中旬更新予定)
$\def\t#1{\text{#1}}\def\dfrac#1#2{\displaystyle\frac{#1}{#2}}$
まずは、会話を 2 組読んでいただくところから始めよう。
【会話 1 】
A: 何の感染症対策もしなければ、42 万人が死亡する可能性があります。人と人との接触を 8 割減らせば、これを回避できます。
B: 死亡者数は、700 人台でした。
A: 大量の死亡者が出なかったのは、皆さんが各自の生活の中で感染対策をしてくださったおかげです。【会話 2 】
A: これからの一週間にとても危険な目に遭うかもしれません。それを避けるためには、△△に注意してください。
B: 毎日安全に暮らせました。危険な目には遭いませんでした。
A: B さんが、△△に注意したおかげですね。
私のブラック・ユーモアがどこまで通じたかはわからないが、上の 2 組の会話の類似性に気づいて頂けただろうか。
麻生一枝 サイエンスライター,成蹊大学非常勤講師.お茶の水女子大学理学部数学科卒業,オレゴン州立大学動物学科卒業,プエルトリコ大学海洋学科修士,ハワイ大学動物学Ph.D. 専門は動物行動生態学.「統計や実験デザインの理解は健全な科学研究に必須である」という信念のもと,これらの教育の普及に熱意を持って取り組む.著訳書に『科学でわかる男と女になるしくみ』 (SBクリエイティブ),『実データで学ぶ,使うための統計入門 ---データの取りかたと見かた』(共訳,日本評論社), 『生命科学の実験デザイン』(共訳,名古屋大学出版会),『科学者をまどわす魔法の数字,インパクト・ファクターの正体---誤用の悪影響と賢い使い方を考える』(日本評論社)など.