『これだけは知っておきたい数学ビギナーズマニュアル(第2版)』(著:佐藤文広)
- #一冊散策
数学は発展しているI (量的拡大)
みなさんが数学の勉強を始める現代は,歴史上でも希なほど盛んに数学の研究が行なわれ年々新しい知識が得られている時代です.
数学者は新しい研究成果が得られると,それを (たいていはヨーロッパ語の) 論文として発表します.では,クイズです.今日,全世界で 1 年間にどれほどの数学の論文が発表されているでしょうか? ちょっと想像してみてください.
多くの科学分野と同様に数学においても,情報の氾濫に対処し検索を容易にするために,世界中で近年に発表された論文の要約を集めて掲載することだけを目的とした雑誌が発行されています.そのような雑誌として有名なものに “Mathematical Reviews” と “Zentralblatt für Mathematik und ihre Grenzgebiete” という雑誌があります.前者はアメリカ数学会から,後者はドイツのシュプリンガー社という出版社から出版されています.私たち数学者は,自分が関心を持っている領域で最近どのような進歩があったのかを知るために,これらの雑誌をながめます.さて,上のクイズの答えを見つけるために,2013 年の “Mathematical Reviews” のオンライン版で調べてみたところ,一月で 9500 編から 11000 編ほどの論文,書籍の要約・書評が掲載されていました.この数字には書籍やこれまでの結果の総合報告も含まれていますが,大半は研究論文ですから,年間に 10 万編ほどの論文が生み出されていると想像されます.
研究論文は専門家の厳格な閲読を経て初めて研究論文誌に掲載されるようになります.専門家の閲読を受け出版されるまでにはある程度の月日がかかりますから,新しい研究情報をできるだけ早く多くの研究者に知らせるために,インターネット上にプレプリントを登録するプレプリントサーバーというものもあります.プレプリントとは,まだ研究論文誌に受理される前の論文原稿のことです.プレプリントサーバーとして有名なものに arXiv があります.ここには, 2013 年には 3 万編に近い数の論文が登録されました.
こうしてみると,世界中でおそらく 10 万を大きく超える数の数学研究者が研究に従事していると見積もることができます.現代の数学研究はひとにぎりの天才だけによって進められているのではなく,多くの研究者の参加による共同作業として展開されていることがよくわかります.
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