(第52回)CDNを用いた海賊版閲覧サイトとプロバイダ責任制限法(濱野敏彦)
(毎月中旬更新予定)
丸橋透「プロバイダ責任制限法」
ジュリスト1573号(2022年)78頁~85頁より
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(以下「プロバイダ責任制限法」という)は、2021年4月に改正法が成立し、2022年10月に施行された。
本改正は、近時、特定の個人に対するSNS等における誹謗中傷が深刻な問題となっていることを踏まえて、実務上の課題を解決するために行われたものである。即ち、改正前は、①発信者情報開示の対象情報の範囲が狭いこと、②開示請求が認められる前にIPアドレス等が消去されてしまっている場合があること、③3段階の裁判手続が必要であることという課題があった。
そこで、本改正によって、①については発信者情報の中に新たに「特定発信者情報」を新設して開示対象の範囲を拡大することにより、また、②及び③については新たな裁判手続を創設するとともに、当該裁判手続において特定の通信ログの早期保全を可能とすることにより、それぞれ対応した。
本改正は、プロバイダ責任制限法が制定されて以来の大きな改正であり、実務に大きな影響を与えることが期待される。このように本改正が実務に与える影響が期待されるものの、本改正のみでは対応することが困難な問題として、海賊版閲覧サイト対策の問題がある。
海賊版閲覧サイトとは、著作物を著作権者の許諾無しにインターネットを介して閲覧可能にしているウェブサイトの総称である。そして、海賊版閲覧サイトの多くで、コンテンツ・デリバリー・ネットワーク(以下「CDN」という)サービスが用いられている。
本稿は、海賊版閲覧サイトにおける著作権侵害を主張する著作権者が、CDN事業者に対して、海賊版閲覧サイトの運営者の特定に関する裁判上及び裁判外の請求を行う際のプロバイダ責任制限法の留意点を考察している。
本稿では、事例及び図を用いて、海賊版閲覧サイトのデータを、CDNを介して、閲覧者が閲覧する流れを分かり易く解説している。即ち、①閲覧者が、配信元(オリジン)サーバにアクセスしようとすると、閲覧者の所在地に近いエッジサーバにアクセスするため、低遅延でコンテンツが配信されること、②エッジサーバは、配信元(オリジン)サーバのいわば分身として機能すること、③閲覧者はエッジサーバにアクセスすることとなるため、配信元(オリジン)サーバのIPアドレスは秘匿されることが、分かり易く解説されている。
また、本稿では、実務的な観点から示唆に富む多くの指摘がなされている。
まず、海賊版閲覧サイトの運営者に損害賠償責任が発生する要件の一つとして、「送信防止の技術的可能性」(プロバイダ責任制限法3条1項柱書)がある場合という要件がある。また、一般的に、違法でない情報についても巻き添えにして送信防止せざるを得ない場合や、送信の全てを停止する方法しかない場合には、「送信防止の技術的可能性」が無いとされている。この点について、本稿は、「配信対象のほとんどすべてが違法コピーであることを主張立証できるのであれば本要件を満たすのではないか」と指摘している。
次に、本稿では、海賊版閲覧サイトの運営者に不法行為の帰責事由として必要となる作為義務違反について、2ちゃんねる小学館事件において、掲示板管理者は、「少なくとも、著作権者などから著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には、可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし、更には、著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど、速やかにこれに対処すべき」作為義務を認定した点から、海賊版閲覧サイトの運営者に対して、著作権侵害事実の通告に十分な証拠を添えることが重要である旨の指摘がなされている。
そして、本稿では、日本のプロバイダ責任制限法では、開示を求めることができる発信者情報は限定列挙されており、支払い関連情報等は含まれないため、米国の開示制度を用いて日本のプロバイダ責任制限法では開示されない情報の開示を求める方法について指摘されている。
さらに、本稿では、「裁判の戦略上の位置づけ」についての検討を行っている。即ち、海賊版のデータが、手を変え品を変え、日本向けに発信されている現状では、個々の裁判において一定の成果を得ることだけでは問題の解決にならないことを指摘した上で、最終的なゴールは、海賊版閲覧サイトの運営者から裁判外で機動的な対処を得られるスキーム作りとそのために必要な海賊版運営者アカウントの本人確認及び関連サーバの同定が可能な仕組みが構築されることである旨の指摘がなされている。
このように、本稿では、事例及び、図を用いて、海賊版閲覧サイトがCDNを介して海賊版のデータを閲覧者が閲覧する流れをわかり易く示すとともに、著作権者が、CDN事業者に対して、海賊版閲覧サイトの運営者の特定に関する裁判上及び裁判外の請求を行う際のプロバイダ責任制限法の留意点について、実務的な観点から示唆に富む多くの指摘がなされている。
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2002年東京大学工学部卒業。同年弁理士試験合格。2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2009年弁理士登録。2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向。主な著書として、『AI・データ関連契約の実務』(共編著、中央経済社、2020年)、『個人情報保護法制大全』(共著、商事法務、2020年)、『秘密保持契約の実務〈第2版〉』(共編著、中央経済社、2019年)、『知的財産法概説』(共著、弘文堂、2013年)、『クラウド時代の法律実務』(共著、商事法務、2011年)、『解説 改正著作権法』(共著、弘文堂、2010年)等。